病気
正しい知識で自身と家族を守る。症状の段階から応急処置、後遺症のリスクまでを解説
メディコレ編集部
監修医師:井筒琢磨
【監修医師(井筒琢磨 先生)からのコメント】 熱中症は気候変動もあり夏以外にも、そして屋内でも起こりやすくなっています。今回は熱中症患者さんの統計データを交えながら、そのメカニズムや重症度、熱中症を予防する対策や、応急処置の方法などを分かりやすく解説します。
更新日2025.12.16
掲載日2025.12.16

令和6年(2024年)の5月から9月にかけて、全国で97,578人が熱中症により救急搬送されました。毎年多くの人が猛暑による影響を受けており、熱中症対策の重要性があらためて問われています。この記事では、日常生活で実践できる予防の工夫や、万が一の際の具体的な対応策をわかりやすく紹介します。
出典:令和6年(5月~9月)の熱中症による救急搬送状況(総務省消防庁)

熱中症を正しく理解し、適切に予防・対処するためには、まず「なぜ熱中症が起こるのか」を知ることが大切です。この章では、熱中症の定義と、発生のメカニズムについて解説します。

熱中症とは、高温や多湿といった環境の中で、体内の水分や塩分のバランスが崩れ、体温調節がうまくできなくなることで起こる身体の異常な状態を指します。体温が必要以上に上昇し、体内に熱がこもることで、めまいや頭痛・嘔吐・意識障害・けいれん発作などの症状が現れます。放置すれば命に関わる場合もあり、早めに症状に気づき対処することが重要です。

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株式会社メディコレ作成
平常時は人の身体は暑さを感じると、自律神経の働きによって手足などの末梢血管が広がり、皮膚表面に多くの血液が流れるようになります。これにより体内の熱が外気へ放出され、体温を下げる仕組みが自然と働きます。これが体温を一定に保つための自然な仕組みです。
しかし、気温が高く湿度も高い環境では、汗がうまく蒸発せず、身体の熱を外に逃がせなくなります。さらに、水分や塩分を十分に補給しないまま過ごすと、体温調節の機能自体が弱まり、身体に熱がこもってしまいます。その結果、体温が異常に上昇し、熱中症を引き起こすのです。

熱中症は、症状の重さによって段階的に分類されており、それぞれに応じた適切な対応が必要です。症状を見極め、自分や身近な人の状態を客観的に判断することは、重症化を防ぐためにも重要です。この章では、熱中症の症状を四つの段階に分けてわかりやすく解説します。

Ⅰ度は、熱中症のごく初期に見られる軽度の症状で、適切な応急処置を行えば回復が期待できる段階です。主な症状には以下のようなものがあります。
この段階では、涼しい場所に移動し、衣服をゆるめて身体を冷やしつつ、水分と塩分を補給することで回復が見込めます。ただし、改善しない場合は次の段階に進行している可能性があるので注意が必要です。

Ⅱ度は、体調の悪化が進み、医療機関での対応が必要となる中等度の状態です。以下のような症状が現れます。
これらの症状がある場合は、速やかに医療機関を受診することが大切です。放置すると重症化し、命に関わる恐れがあります。

Ⅲ度は、重度の熱中症であり、命に関わる緊急事態です。入院や集中治療が必要になることもあります。主な症状は以下のとおりです。
これらの症状が現れた場合は、病院での迅速な治療を受ける必要があります。

Ⅳ度は、2024年の熱中症診療ガイドラインで新たに定義された最重症の段階です。定義は以下のとおりで、両方の条件を満たす必要があります。
この基準に該当する場合は、集学的治療を含む対応が不可欠です。
(1)体の深部に位置する脳や内臓の温度
熱中症の症状と重症度分類
重症度 | 主な症状 |
|---|---|
Ⅰ度(軽症) |
|
Ⅱ度(中等症) |
|
Ⅲ度(重症) |
|
Ⅳ度(最重症) |
|
出典:熱中症診療ガイドライン2024(一般社団法人日本救急医学会)をもとに株式会社メディコレ作成
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出典:令和6年(5月~9月)の熱中症による救急搬送状況(総務省消防庁)をもとに株式会社メディコレ作成
令和6年(5月~9月)の熱中症による救急搬送状況(総務省消防庁)によると、熱中症による救急搬送人員のうち最も多かったのは満65歳以上の高齢者で、55,966人(57.4%)にのぼりました。しかし、成人や少年も少なくない割合を占めており、年齢に関わらず一人ひとりが適切な予防対策を講じることが求められます。
出典:令和6年(5月~9月)の熱中症による救急搬送状況(総務省消防庁)
この章では、誰でもすぐに実践できる熱中症予防の具体的な対策について、日常生活の視点からわかりやすく解説していきます。屋外・屋内を問わず意識すべきポイントを押さえて、猛暑の季節を安全に乗り切りましょう。


熱中症を予防するうえで基本となるのが、十分な水分と塩分の補給です。特に高温多湿な環境では、気づかないうちに大量の汗をかいており、体内の水分や電解質が失われています。水分は「喉が渇いた」と感じる前や、暑い場所に行く前から意識して補うことが大切です。1日あたり1.2ℓ程度を目安に、定期的に水分を摂取する習慣をつけることが望まれます。
また、大量の発汗がある場合には、水分だけでなく塩分も一緒に補うことがポイントです。塩分濃度0.1~0.2%程度のスポーツ飲料は、熱中症の予防に適しています。ただし、糖分が多く含まれているため、摂取量には注意が必要です。糖分が気になる方は水で半分に薄めて摂取するのもよいでしょう。

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日々のちょっとした工夫が、熱中症の予防に大きく役立ちます。例えば、外出時にはゆったりした服や通気性の良い服を選ぶことで、身体に熱がこもるのを防ぎやすくなります。特に吸汗・速乾素材の衣類は、汗を素早く蒸発させる効果があり、体温の上昇を抑える助けになります。
また、帽子や日傘の使用によって直射日光を避けることも非常に重要です。日差しを直接浴びることで体温が急激に上昇するのを防ぎ、身体への負担を軽減することができます。
さらに、熱中症の危険度を示す「暑さ指数(WBGT)」をチェックする習慣を身につけるのも効果的です。暑さ指数とは、気温・湿度・輻射熱をもとに算出される指標で、熱中症のリスクを評価するために用いられています。環境省のウェブサイトでは、リアルタイムで暑さ指数を把握できます。
外出する時間帯も工夫しましょう。気温の高い昼間を避け、できるだけ朝夕の涼しい時間帯を選ぶことで、熱中症になるリスクを回避できます。

熱中症は屋外だけでなく、意外にも室内で多く発生しています。特に高齢者が長時間過ごす家庭内では、外出時ほど暑さへの意識が向かず、対策が後回しになってしまうことも少なくありません。
実際、2018年の厚生労働省人口動態統計によると、熱中症による死亡者のうち家庭(庭も含む)での発生が56.5%を占めており、家庭内における熱中症対策の重要性が高まっています。
室内での対策としては、まずエアコンや扇風機を適切に使い、室温を28℃以下に保つことが重要です。冷房を避ける方もいますが、無理に我慢せず、必要なときには迷わず使用するようにしましょう。
さらに、湿度が高すぎると、室温が低めでも蒸し暑さを感じやすくなり、不快に感じることがあります。一般的に、快適に過ごせる湿度は55〜65%とされており、熱中症対策の観点からも湿度管理は重要です。
日差しによる室温上昇を防ぐために、遮光カーテンやすだれを使うのも効果的です。寝室では、就寝中の熱中症を防ぐためにも、室温や湿度をしっかり管理しましょう。
出典:熱中症環境保健マニュアル2022(環境省 熱中症予防情報サイト)

最優先すべきは「意識の確認」です。反応がない場合や、呼びかけに対する返答がおかしい場合は、すぐに119番通報し、救急車を要請してください。その際、ためらわず迅速に判断することが重要です。
救急車の到着を待つ間も、身体を冷やす処置を行います。涼しい場所へ移動させ、衣服をゆるめて身体の熱を逃がしましょう。首、脇の下、足の付け根など、太い血管が通る部分を中心に、保冷剤や冷たいタオル、水をかけて扇ぐといった冷却方法が効果的です。
また、冷やすものが手元にない場合は、血圧が下がらないように身体を横にして足を上げ、心臓や脳への血流を確保することも重要です。
本人に意識があり、自力で水分を飲める状態であれば、冷たい水などで水分補給を促してください。ただし、意識がもうろうとしている場合や嘔吐が見られる場合は、誤嚥のリスクがあるため、無理に飲ませないように注意が必要です。

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出典:年齢(5歳階級)別にみた熱中症による死亡数の年次推移(平成7年~令和5年)~人口動態統計(確定数)(厚生労働省)をもとに株式会社メディコレ作成
グラフからわかるように、熱中症による死亡者数は年ごとに大きく変動しています。令和3年には比較的少なかったものの、その後は増加傾向が続き、令和5年には過去5年間で最も多い1,651人に達しました。
熱中症は、重症化した場合、命に関わるだけでなく、回復後も後遺症が残るリスクがあります。特に高体温が長時間持続すると、身体のさまざまな臓器や神経系に深刻なダメージを与えることがあり、元の生活に戻れなくなるケースも報告されています。
この章では、熱中症によって生じる可能性のある後遺症について、主に中枢神経系と身体機能への影響に焦点を当てて解説します。

重度の熱中症では、身体の深部の体温が40℃を超えることがあります。特に40.5℃以上の高い体温が続くと、命にかかわる状態になりやすく、後遺症が残るリスクも高まります。
中枢神経系の中で、特に熱による影響を受けやすいのが「小脳」や「大脳皮質」などです。高次脳機能障害、嚥下障害、小脳失調などの後遺症が残ることが知られています。
これらの神経障害は、高熱による循環不全が引き起こす低酸素脳症や、微細な血栓による脳虚血、さらに異常な高体温が続くことによって炎症性サイトカイン(体内で炎症反応を引き起こすタンパク質)が上昇し、脳の代謝に異常をきたすことなどが原因と考えられています。
事実、救急搬送後に意識障害が続くケースや、回復しても言語や認知機能に異常が残る事例は、複数の医療機関で報告されています。熱中症は脳にも影響を及ぼす深刻な疾患であることを認識し、早期の対処と予防が重要です。

熱中症による高体温や循環障害は、腎臓や肝臓などの臓器機能にまで影響を及ぼすことがあります。特に脱水状態が続くと、腎臓に負担がかかり急性腎障害を起こすリスクが高まります。また、高熱や血流障害により肝臓にもダメージが加わると、肝機能障害を引き起こすことがあります。
後遺症の現れ方や程度には個人差があり、年齢や持病の有無、治療までの時間などが影響します。したがって、熱中症は長期的な健康にも影響を与える可能性がある病態として向き合うことが必要です。
子どもは体温調節機能が未熟なため、熱中症のリスクが高いとされています。一方で高齢者は、体温調節機能が加齢によって低下していることがあり、熱中症にかかりやすい傾向があります。
子どもは体温が上がりやすく、汗腺の発達も不十分なため、体内に熱がこもりやすいという特徴があります。また、身長が低いため、地面からの照り返しの影響も受けやすく、炎天下では大人よりも高温環境にさらされやすくなります。
一方、高齢者は暑さを感じにくくなる傾向があるほか、汗をかく機能も低下しています。そのため、室内にいても熱中症を発症する危険があります。エアコンの使用を控えるケースもあるため、家族や近隣の人が定期的に声をかけ、室温管理や水分補給をサポートすることが重要です。
運動による熱中症は、適切な準備と配慮で予防することができます。
まず大切なのは環境の把握で、気温や湿度が高いときには無理をせず、運動時間や内容を調整することが求められます。また、運動中は喉の渇きを感じる前から水分を補給し、特に汗を多くかいた場合は塩分もあわせて摂取すると安心です。
暑さに慣れていない時期には徐々に強度を上げることが望ましく、体調がすぐれない場合や強い疲労がある場合には思い切って運動を控える勇気も必要です。
さらに、通気性の良い服装や帽子で直射日光を避けるなどの工夫もしましょう。万一、頭痛や吐き気などの異変を感じたときは、すぐに運動を中止し涼しい場所で休むことが重症化を防ぐために重要です。
熱中症は、「真夏の屋外だけで起きるもの」ではなく、室内や春先、秋口でも起こりうる身近な健康リスクです。しかしその一方で、日々のちょっとした心がけや対策で、多くの場合、予防できる疾患でもあります。
本記事では、水分・塩分の補給や暑さ対策、室内環境の整備といった基本的な予防策から、後遺症や応急処置のポイントまでを解説してきました。特に子どもや高齢者など、リスクが高い人に対しては、周囲のサポートも重要になります。
大切なのは、「まだ大丈夫」と思わず、余裕を持った行動を取ることです。正しい知識を持ち、自分と周囲の命を守る行動を、今日から実践していきましょう。

井筒 琢磨(いづつ たくま)
保有免許・資格

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