介護保険とは、要支援・要介護状態になったときに、給付を受けられる保険です。広い意味での介護保険の中には、介護サービスを1~3割の自己負担で利用できる国の公的介護保険制度と、要支援・要介護に該当したときなどに一時金や年金を受け取れる民間の介護保険があります。介護保険のサービス内容や対象年齢、民間の医療保険との違い、認知症に限定した認知症保険などについて解説します。

介護保険とは?

介護保険は、日常生活に支援が必要な要支援状態になったり、介護を必要とする要介護状態になったりした場合に給付を受けられる保険です。大きく分けて、国の公的介護保険と、民間の保険会社が提供する介護保険の二つがあります。

公的介護保険は国の制度で、40歳以上のすべての人が加入し、所定の要支援・要介護状態になったときには、介護サービスを受けることができます。

民間の介護保険は保険会社が提供している商品のひとつで、所定の要支援・要介護状態になったときに、一時金や年金を受け取ることができます。

ポイント

  • 介護保険は国の公的介護保険制度と、民間の保険会社の介護保険がある。
  • 国の公的介護保険制度では、介護サービスを受けられる。
  • 民間の介護保険では、所定の要支援・要介護状態になったときに一時金や年金を受け取れる。

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公的介護保険とは?

公的介護保険は、40歳以上の人が加入する国の社会保険制度のひとつです。所定の要支援・要介護状態になったときに、介護サービスを利用することができます。現物給付といって、介護サービスそのものが給付されるのが特徴です。

公的介護保険の被保険者の区分

公的介護保険に加入する40歳以上の人の中でも、被保険者は年齢によって二つの区分があります。区分によって、利用できる介護サービスの範囲や保険料などが異なります。

65歳以上の人:第1号被保険者

要支援・要介護状態になった際に、原因を問わず介護サービスを利用できます。公的介護保険の対象になるサービスの利用料は、所得に応じて、かかった費用の1~3割を自己負担します。

保険料は年金収入などの所得に応じて、居住している市区町村が定めています。

40~64歳の人:第2号被保険者

特定の疾病が原因で要介護状態になった場合に限り、介護サービスを利用できます。自己負担割合は1割です。

保険料は健康保険の保険料に上乗せして納めます。自営業などで国民健康保険に加入している場合には、所得に応じて市区町村が定めた保険料を自分で納めます。会社員や公務員は加入している健康保険が定める保険料率で計算され、事業主と折半で負担します。保険料は、給与とボーナスから天引きされます。

公的介護保険のサービス内容

公的介護保険のサービスは、大きく分けて3つの種類があります。

在宅サービス

自宅で受けられる介護サービスや、自宅から施設に通って受ける介護サービス。車椅子や歩行支援具、移動用リフトのレンタルや、住宅への手すりの取り付け費用の補助などもあります。
  • 自宅で受けるサービス:訪問介護、訪問入浴介護、訪問看護、訪問リハビリテーションなど
  • 施設などで受けるサービス:デイサービス、デイケア、ショートステイなど

地域密着型サービス

地域の事業所や施設で利用できる介護サービス。
  • 自宅で受けるサービス:定期巡回、夜間対応型訪問介護など
  • 施設などで受けるサービス:認知症で介護を必要とする人に対応したデイサービスセンターでの介護やグループホーム、小規模多機能型居宅介護など

施設サービス

特別養護老人ホームなどの施設に入所して受けられるサービス。
  • 介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)、介護老人保健施設、介護医療院など

介護サービスを利用した場合の自己負担額

上記の介護サービスを利用したときには、サービス費用の1~3割を、所得に応じて自己負担します。

介護保険の自己負担割合(第一号被保険者:65歳以上の人の場合)。本人の合計所得金額が220万円以上かつ年金収入+その他合計所得金額340万円以上(単身世帯の場合。夫婦世帯の場合463万円以上)は3割負担。上記以外の場合は2割負担または1割負担。本人の合計所得金額が160万円以上220万円未満かつ年金収入+その他合計所得金額280万円以上(単身世帯の場合。夫婦世帯の場合346万円以上)は2割負担。上記以外の場合は1割負担。本人の合計所得金額が160万円未満の場合は1割負担。※第2号被保険者、市町村民税非課税者、生活保護受給者の場合、上記のフローにかかわらず、1割負担

出典:厚生労働省「給付と負担について」

ただし、在宅サービスと地域密着型サービスについては、要支援・要介護度に応じた支給限度額(利用限度額)があります。1ヶ月に利用したサービスが支給限度額を超えると、全額が自己負担になります。

在宅サービスと地域密着型サービスの1ヶ月あたりの支給限度額(利用限度額)

要介護度 支給限度額 自己負担
(1割)
自己負担
(2割)
自己負担
(3割)
要支援1 50,320円 5,032円 10,064円 15,096円
要支援2 105,310円 10,531円 21,062円 31,593円
要介護1 167,650円 16,765円 33,530円 50,295円
要介護2 197,050円 19,705円 39,410円 59,115円
要介護3 270,480円 27,048円 54,096円 81,144円
要介護4 309,380円 30,938円 61,876円 92,814円
要介護5 362,170円 36,217円 72,434円 108,651円

出典:厚生労働省 介護サービス情報公表システム「サービスにかかる利用料」をもとに筆者作成

これらの自己負担額が高額になったときには、負担を軽減できる制度もあります。このうち「高額介護サービス費」は、1ヶ月の介護サービスの自己負担額が一定額を超えた場合に、超えた分が申請によって払い戻される制度です。一般的な所得の人の場合、1ヶ月の自己負担限度額は世帯で44,400円です。

高額介護サービス費の負担限度額(月額)。課税所得690万円(年収約1,160万円)以上の場合、140,100円(世帯)。課税所得380万円(年収約770万円)~課税所得690万円(年収約1,160万円)未満の場合、93,000円(世帯)。市町村民税課税~課税所得380万円(年収約770万円)未満の場合、44,400円(世帯)。世帯の全員が市町村民税非課税の場合、24,600円(世帯)。前年の公的年金等収入金額+その他の合計所得金額の合計が80万円以下の方等の場合、24,600円(世帯)、15,000円(個人)。生活保護を受給している方等の場合、15,000円(世帯)

出典:厚生労働省「令和3年8月利用分から高額介護サービス費の負担限度額が見直されます」

また、1年間(毎年8月1日~翌年7月31日)の公的医療保険と介護保険の自己負担額を合計して一定額を超えたときに、超えた分が申請によって払い戻される「高額介護合算療養費」という制度もあります。70歳以上で一般的な所得(課税所得145万円未満)の場合、年間の限度額は世帯で56万円です※。

※出典:厚生労働省「高額介護合算療養費制度について」

公的介護保険でカバーできないもの

公的介護保険の対象にならない介護費用は、全額が自己負担になります。主に次のものが挙げられます。

  • 40歳未満で受ける介護サービスの費用
  • 40~64歳で、特定疾病以外の原因で要介護状態になり利用した介護サービス費用・食費、日常生活費
  • 施設の滞在費、居住費
  • 公的介護保険の支給限度額を超えた在宅サービス・地域密着型サービスの費用
  • 大規模な住宅リフォーム費用(手すりの取り付けなど小規模な住宅改修費を除く)
  • 有料老人ホームへの入居一時金
  • 介護を担う家族にかかる費用

ポイント

  • 公的介護保険では、在宅サービス、地域密着型サービス、施設サービスを受けられる。
  • 公的介護保険の介護サービスの自己負担割合は、所得などに応じて1~3割
  • 公的介護保険の対象にならない費用は、全額が自己負担

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民間の介護保険とは?

民間の保険会社が扱う介護保険は、一般的には公的介護保険で保障されない分をカバーする目的で契約します。公的介護保険では介護サービスにかかった費用の1~3割の自己負担で利用できますが、要介護度によっては保険の対象にならないサービスがあったり、対象になっても自己負担額が高額になったりするおそれがあります。

そこで、介護サービスを受ける際の経済的な負担を軽減するために活用できるのが、民間の介護保険です。日常生活で介護が必要な状態になり、保険会社所定の要支援・要介護状態に該当したとき(保険会社によっては公的介護保険の要介護度に連動するものもあります)に、一時金や年金を受け取れます

民間の介護保険の保障(補償)内容

民間の介護保険は、主に所定の要支援・要介護状態に該当したときに一時金や年金を受け取れる保険です。介護への保障(補償)を主な契約として加入するもの(主契約)と、死亡保険や医療保険の特約として加入するものがあります。

一般的な民間の介護保険は、所定の支払事由に該当したときに、保険金や給付金が一時金または年金形式で支払われます。一時金と年金の保障がセットになった介護保険もあります。

また、所定の要介護状態に該当すると死亡保障の保険金が前払いされる、保険料の払込が免除されるといった形で介護保障を提供している保険もあります。

保険金や給付金の支払事由は、民間の介護保険の中でも商品によって異なります。ひとつの商品の中でも、一時金と年金で支払事由が異なる場合もあります。

公的介護保険の要介護度に連動するタイプ

「要介護3以上」「要介護2以上」など、公的介護保険の所定の要支援度・要介護度に該当すると、一時金・年金が支払われる。

生命保険会社所定の要介護基準を設けるタイプ

寝たきり状態である、歩行ができない状態である、自分では食事や入浴ができないなど、日常生活で介護が必要な状態に該当し、その状態が180日など一定期間継続したと判断された場合に、一時金・年金が支払われる。介護の必要度を判断する項目の内容や数は商品によって異なる。

認知症の診断を支払事由に含むタイプ

所定の要介護状態に該当することに加えて、所定の認知症の診断や認知機能の低下に該当した場合に、一時金・年金が支払われる。

※ここでの説明はあくまでも概要です。商品の詳細は、各保険会社にご確認ください。

ポイント

  • 民間の介護保険は、所定の要支援・要介護状態に該当したときに、一時金や年金が受け取れる。
  • 民間の介護保険の支払事由は、主に、公的介護保険に連動するタイプと、生命保険会社所定の基準があるタイプ、認知症の診断を含むタイプがある。

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民間の介護保険と医療保険や認知症保険の違い

介護に関わる病気に対応するには、医療保険や認知症保険で備える選択肢もあります。いずれも、公的介護保険や公的医療保険だけでは不足が懸念される介護費用や医療費などを備えるために活用できますが、それぞれどのような違いがあるのかみてみましょう。

民間の介護保険と医療保険の違い

民間の医療保険は、病気やケガなどでかかる費用に備える保険です。入院したとき、手術をしたとき、通院をしたとき、がんなど所定の病気と診断されたときなどに、支払いを受けることができます。

これに対して、民間の介護保険は要支援・要介護状態になったときに支払われるもので、認知症など一部を除き、所定の病気やケガと診断されたり、入院したりすることは必ずしも要件とされていません。

また、保障内容も違います。医療保険は病気やケガで入院したときや手術をしたとき、通院をしたときに、日数や回数に応じて給付金が支払われるものが一般的です。そのため、介護が必要な病気になった際も、入院や通院などの支払条件を満たせば、医療保険で保障を受けられます。介護保険では、後述する認知症への備えを組み合わせられる商品もありますが、要支援・要介護状態になったときに支払われるのが基本的な保障内容です。

おおまかにいえば、病気やケガでの入院・手術に備えられるのが医療保険、原因を病気・ケガに限らず、要支援・要介護状態になったときに備えられるのが介護保険といえるでしょう。

民間の介護保険と認知症保険の違い

民間の介護保険には、要介護状態かつ認知症と診断されたときに支払われるタイプのものがあります。また、認知症への備えに重点を置いた「認知症保険」を提供している保険会社もあります。

商品によりさまざまな保障があり、明確な違いを一概に定義することは難しいですが、認知症への保障がある保険は主に次のようなタイプが挙げられます。

認知症への保障がついた介護保険

所定の要介護状態、かつ所定の認知症と診断されたときに支払われる介護保険。軽度認知障害(MCI)への保障がついている保険もある。

認知症のみを保障する認知症保険

主に、認知症の診断確定により支払われる保険。要支援・要介護状態を問わないものや、軽度認知障害(MCI)への保障がついている認知症保険もある。

ポイント

  • 民間の医療保険は病気やケガに備えられる。原因を病気・ケガに限らず、要支援・要介護状態になったときに備えられるのが民間の介護保険。
  • 民間の介護保険には、認知症への保障がついているものがある。

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Q&A

民間の介護保険は何歳から加入できますか?

40歳以上が対象とされている公的介護保険と違い、民間の介護保険は、保険会社所定の年齢の範囲で加入できます。契約年齢を15歳~75歳や15歳~85歳などとし、公的介護保険の対象にならない40歳未満で加入できるものもあります。ただし、支払事由の基準が公的介護保険に連動しているタイプなどでは、40歳以上から加入可能としている介護保険もあります。

要介護認定を受けた人は民間の介護保険に加入できますか?

現在または過去一定期間以内に、公的介護保険の要介護認定や要支援認定を受けたことがある場合は、民間の介護保険には申し込めないことが一般的です。また、認定の申請中である場合にも、申し込めないことがあるようです。詳しいことは各保険会社に確認しましょう。

まとめ

介護保険は、日常生活に支援が必要な要支援状態になったり、介護を必要とする要介護状態になったりした場合に給付を受けられる保険です。国の公的介護保険では、1~3割の自己負担で介護サービスを利用できます。国の公的介護保険で負担する費用や、対象外のサービス費用などに備えるには、民間の保険会社が提供する介護保険を活用することができます。

民間の介護保険の中には、認知症と診断されたときや認知症になり一定の要介護状態に該当したときなどに給付金が支払われる、認知症保険(保障)を組み合わせられる商品もあります。国の公的介護保険制度の内容を理解して、介護が必要になったときの備えについて考えてみたいですね。

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