前立腺がんは男性のがん部位別罹患数1位となっています。近親者に前立腺がんを発症された方がいる場合、発症リスクが高まります。早期発見のために定期検診を受けるようにしましょう。
前立腺は、男性特有の生殖に関わる臓器です。膀胱の下に位置し、尿道のまわりを取り囲み、栗の実のような形をしています。前立腺から分泌される前立腺液は精液の一部として栄養を与え、精子を保護する役割があります。
前立腺がんは、前立腺の細胞が異常に増殖することによって発生する病気です。がんの罹患数を部位別に集計した厚生労働省の「令和元年 全国がん登録 罹患数・率報告」では、男性のがんでは前立腺が最も多いことが確認できます。また、前立腺がんの患者数は近年増加傾向にあります(※出典:国立がん研究センターがん情報サービス「がん種別統計情報 前立腺 年次推移」より)。
部位別の割合は以下のとおりです。
前立腺がんの原因として決定的な危険因子は特定されていないのが現状ですが、主に以下のものが挙げられます。
なかでも注目されているのが「遺伝的要因」です。家族に前立腺がんの患者がいる場合は、がんの発症リスクが高まるといわれています。
早期の前立腺がんは、多くの場合自覚症状は見られません。しかし、前立腺がんと同時に発症することの多い前立腺肥大症により、尿に異常が現れる場合もあります。
例えば、などの症状が現れます。
上記のような排尿の症状に加えて、血尿や腰痛が現れるようになると前立腺がんが進行している可能性があります。腰痛は前立腺がんが骨に転移する骨転移が原因と考えられます。
5年相対生存率という用語をご存じでしょうか。
国立がん研究センターによると、5年相対生存率とは以下のとおりになります。
あるがんと診断された場合に治療でどのくらい生命を救えるかを示す指標の一つで、異なる集団や時点などを比較するために慣例的によく用いられます。あるがんと診断された人のうち5年後に生存している人の割合が、日本人全体*で5年後に生存している人の割合に比べてどのくらい低いかで表します。100%に近いほど治療で生命を救えるがん、0%に近いほど治療で生命を救い難いがんであることを意味します。
* 正確には、性別、生まれた年、および年齢の分布を同じくする日本人集団
国立がん研究センターがん情報サービスより引用
ステージごとに前立腺がんの5年相対生存率をご紹介します。
前立腺がんの各ステージと前立腺の状態
ステージ | 状態 |
ステージⅠ | がんが前立腺内にとどまっている |
ステージⅡ | がんが左右どちらかに1/2を越えて広がっている |
ステージⅢ | がんが前立腺被膜を越えて広がっている |
ステージⅣ | がんが隣接する臓器に広がり、リンパ節転移や遠隔転移もある |
がんのステージはⅠからⅣまで分類され、ステージが進行するほど生存率は低下します。ステージⅢまでは相対生存率は100%、ステージⅣが63.4%です(出典:国立がん研究センターがん情報サービス「院内がん登録 2013-2014年5年生存率集計」)。
日本での前立腺がんの治療法はいくつかの種類に分けられます。
治療方針は以下の要素を考慮し、主治医と患者本人・患者の家族で決定します。
それぞれの治療法についてご説明します。
前立腺がんを直接切除する手術療法は、完治できる可能性が高く、直接患部を観察できるため、術前には確認できなかったリンパ節転移などに対して治療を行います。
なお、手術によって「尿漏れ」や「性機能障害」などの合併症が起こる可能性がありますが、技術の進歩により改善傾向にあります。
がんに対して放射線を照射することで、がん細胞を死滅または縮小することが期待される治療です。放射線治療は手術療法と併用することもあり、対象疾患は多岐にわたります。
前立腺がんの放射線治療には、体の外側から前立腺に放射線をあてるIMRT(Intensity Modulated Radiation Therapy:強度変調放射線治療)と呼ばれる、がんの形状に合わせて高線量を照射する方法や、治療期間が短く副作用の比較的少ない重粒子線・陽子線治療などの方法があります。その他にも小線源治療という、放射線を放出する物質を前立腺内に挿入し、内部から放射線をあてる治療法もあります。早期の前立腺がんに対して行われ、治療成績は手術や放射線照射と同程度と考えられています。
前立腺がんはアンドロゲンという男性ホルモンによって細胞が増殖します。ホルモン療法は、この男性ホルモンを抑えることで、がんの成長を抑える方法です。
がんが転移しており、手術や放射線では治療できない場合や、高齢により手術など負担のかかる治療を行えない場合に実施されます。がんの影響力を薬物で抑え、がんと共存していくことを目指す治療法で、効果の持続期間はがんの悪性度によって異なります。
薬の効果でがん細胞を消滅させたり小さくしたりすることを目指す治療になります。一方で、副作用が強く、食欲不振や免疫力の低下による感染症などが見られます。体力の乏しい高齢の方に適応するのは難しいことが多いようです。
前立腺がんは、その初期段階であれば生存率がほぼ100%と高い一方、進行とともに生存率が低下していく疾患です。そのため、定期的な検診が早期発見・早期治療につながり、結果的に生存率向上に寄与します。
前立腺がんの検査には、PSA(前立腺特異抗原)検査や直腸診が一般的です。これらの検査は、前立腺の異常を早期に見つけるための重要な手段となります。一方で、前立腺がんは「がん」と「がんでない病気」の境が非常にあいまいで、グレーゾーンの大きい疾患です。そのため、どの検査を行うのが最適かは一概には言えません。
多くの医師は、患者さん個人の価値観や家族の病歴などを総合的に考慮して、適切な検査方法を提案します。そのため、前立腺がんの検査については、自身の状況を明確に医師に伝え、積極的に相談することが重要です。
前立腺がんは早期発見が可能な疾患であるため、早めの検査と適切な相談を心がけましょう。
前立腺肥大症と前立腺がんは、発生の仕方も発生する部位も違うことが多いです。そのため、前立腺肥大症が悪性化して前立腺がんになることはありません。
しかし、排尿障害など、どちらの疾患でも起こりうる症状が現れることがあり、症状だけでは前立腺肥大症か前立腺がんかを区別することはできません。早期に泌尿器科を受診することをおすすめします。
前立腺がんの予防法として明確なものはありませんが、バランスのとれた食事、禁煙をする、過度な飲酒を控える、習慣的に運動をするなど、健康的な生活スタイルを心がけるとよいでしょう。
以上、前立腺がんについて解説をしました。
前述のとおり、前立腺がんと診断された人の5年相対生存率は100%となっていますが、がんが進行するにつれて生存率は低下します。そのため、がんを早期に発見し治療につなげることが重要になります。
前立腺がんは排尿障害など、前立腺肥大症と重複する症状も多くあります。気になる症状がある場合は近くの医療機関での受診を検討してください。
上 昌広
医療法人鉄医会ナビタスクリニック
専門領域
内科, 内分泌代謝科, アレルギー・膠原病内科, 神経内科, 肝胆膵内科, 消化器内科, 総合内科, 血液内科, 腎臓内科, 循環器内科, 感染症科, 糖尿病内科, 呼吸器内科, 医療データ, 腫瘍内科
経歴
1993年 東京大学医学部医学科卒業、1999年 東京大学大学院医学系研究科修了、1999–01年 国家公務員共済組合 虎の門病院 血液科医員、2001–05年9月 国立がんセンター中央病院 薬物療法部医員、2010年7月16日-2016年3月31日 東京大学医科学研究所 先端医療社会コミュニケーションシステム社会連携研究部門 特任教授、2016年4月4日~現職(2023年5月現在)
保有免許・資格
医学博士
この記事は、医療健康情報を含むコンテンツを公開前の段階で専門医がオンライン上で確認する「メディコレWEB」の認証を受けています
ライフネット生命の保険は、インターネットを使って自分で選べるわかりやすさにこだわっています。保険をシンプルに考えると、これらの保障があれば必要十分と考えました。人生に、本当に必要な保障のみを提供しています。