統計はリスク社会の羅針盤

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ライフネット生命 スタッフ

10月に早稲田大学大隈記念講堂で開催されたシンポジウム「論より統計!社会が求める人材になるために」。お世話になったアクチュアリーがパネリストとして登壇するということもあり、参加してきました。明治14年に統計院を設立した大隈重信から始まる「官」の視点での統計と政府の結びつき、教育現場での実情を踏まえた「学」の視点での統計教育に対する問題提起、そして「産」の視点では、古くから統計を用いてビジネスを行ってきたアクチュアリーの話題と、内容も盛り沢山で、学びの多いシンポジウムでした。

中でも面白かったのが、最近の統計ブームの火付け役とも言われている西内啓氏のプレゼンテーション。著書「統計学が最強の学問である」がベストセラーになった「統計家」です。この「統計家」というタイトルは、英語の「Statistician」を訳したもの。北米では、「Statistician」という職業は一定の知名度もあり、それをビジネスとしているコンサルタントもいます。大学でも、統計学科は人気の高い学科の1つでもあり、「Statistical Consulting」という授業が行われる大学もあります。これだけコンピュータが進化した現代において、ビジネスに統計学を用いないのは勿体ない。西内啓氏の発表は、聴衆にそんな印象を植え付ける軽快なテンポのプレゼンテーションでした。

話題は変わって、11月の日本アクチュアリー会の年次大会で発表する機会がありました。ERM(Enterprise Risk Management)と呼ばれる保険会社を取り巻くリスクを統合的に管理するフレームワークをテーマに、「産官学」のメンバーが議論し合うパネルディスカッション。このセッションに、日本統計学会の会長である国友先生にも来て頂きました。

現在の統計学の源泉ともされるジョン・グラントが作成した生命表。この生命表は、保険会社にとって、保険料率算定において無くてはならない極めて重要な統計データです。現代のように統計データの整備が十分ではない17世紀のイギリスにおいて、ジョン・グラントは各地の教会をまわり、死亡調書を集め、限られたデータから統計学を用いて生命表を拡大推計したと言われています。国友先生の発表は、このジョン・グラントの話題から最近のリスク管理で用いられるようになった先進的な統計学まで幅広な内容を含んでおり、統計学とアクチュアリーには密接な関係があることを再認識させてくれる意義深いプレゼンテーションでした。

そして最後に、拙い自分の発表で引用した、19世紀に米国アクチュアリー会の必要性を描いたと言われるエリザ・ライトの書簡をここでも紹介します。

「砂漠を越えるときに、孤独な巡礼よりもキャラバン隊の方が安心できるように、保険事業を完璧に運営するためのほとんど無尽蔵ともいえる統計の無味乾燥さは、確固とした共同研究があれば心の支えになるかもしれない。もし、アクチュアリー会ができ、この大目標に貢献できれば、どんなに誇りに思うだろうか」(エリザ・ライト)

リスクや不確実性の多い現代において、保険事業を取り巻くリスクは複雑化・多様化しています。でも、竹内啓氏が言うように、昔に比べるとコンピュータや利用可能な統計データは圧倒的に増えています。つまり、リスクに対処するための「武器」は間違いなく増えています。そのような現代においても、統計は依然として無味乾燥であり、利用可能なデータが増えたがゆえに、一定水準の統計リテラシーがないと、統計データから真実を見出すのにも苦労します。でも、保険会社には、アクチュアリーと呼ばれる一定水準の統計リテラシーを持った人材が所属しています。そして、リスクが複雑化・多様化した現代においても、ERMと呼ばれるリスクを統合的に管理するフレームワークを構築することで、保険会社の健全性と収益性を担保する「武器」を整備しようとしています。

当社の会長である出口は、口癖のように「数字とファクトとロジックで考える」と言います。そのフレーズを自分の言葉で言いかえると、「統計的に考える」と解釈していました。リスクも統計的に考えると、より客観的に捉えることができるようになり、ファクトをロジカルに伝えることができます。統計には、膨大なデータから真実を見出す楽しみさえあります。そんなことを思いながら、日々仕事をしているリスク管理部の藤澤でした。

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