責任準備金の算式の変更について

投稿者:
ライフネット生命 スタッフ

こんにちは、数理部の岸本です。
ちょうど年度末決算の時期ですので、それに関連する話です。

2012年12月末の第3四半期決算から責任準備金の算式の変更を行いました。
そもそも「責任準備金ってなに?」という方が多いかと思いますので、出てくる言葉の説明をしながら順を追って、この変更について書いてみます。


(1)(営業)保険料、保険料計算基礎率

(この社員ブログをご覧の方には今さらかもしれませんが、)
保険料は、契約者が保障の対価として保険会社に支払うお金のことです。
受け取った保険料をもとに、運用したり、保険金等の支払いをしたり、会社の運営に必要な経費に充てたりすることで、保険会社は成り立っています。

保険料は、あらかじめ想定した死亡率など保険金等の支払いの発生率(予定死亡率・予定発生率)、運用利回り(予定利率)、経費に充てる部分の割合(予定事業費率)などを用いて計算しています。あらかじめ定めたこれらのものを「保険料計算基礎率」とか単に「基礎率」などといいます。

なお、次の純保険料と区別するために保険料のことを「営業保険料」と呼ぶこともあります。

(2)純保険料、付加保険料

純保険料とは、将来の保険金等の支払い金額を、保険期間全体での保険料の支払い回数で割った金額のことです。(注1, 2)
予定事業費率を含んでいないので、営業保険料と同じ基礎率で計算すれば、純保険料は営業保険料よりも小さい額になります。営業保険料から純保険料を除いた部分を付加保険料といいます。

(3)保険料率、保険料レート(Pレート)

保険金(保険金がない場合は給付金、以下も同じ)に対する保険料の割合のことです。
保障内容や年齢・性別などによって異なります。(Pは保険料を表します。)

保険金を変えるたびに、いちいち基礎率から保険料を計算するのは大変なので、実務では、保険料を直接計算するのではなく、あらかじめ保険料率を計算しておいて、そこに保険金を掛けて保険料を算出することが一般的です。

ただし、ライフネット生命の場合、保険料が保険金に比例しないため、

保険料率×保険金 + 250円

として計算しています。

たとえば、かぞくへの保険、30歳男性、保障期間10年だと、保険料率は0.0001078 です。
保険金1千万円の契約の場合
0.0001078 × 10,000,000 + 250 = 1,328 円

保険金2千万円の契約の場合
0.0001078 × 20,000,000 + 250 = 2,406 円

となります。最後に250円を足しているので、保険金が倍になっても保険料は倍になっていないことにご注意ください。

(4)責任準備金

将来の保険金等の支払いに備えて保険会社が積み立てておく金額のことです。
会計上負債として計上されるものです。

(5)保険料積立金

字面から、保険料をそのまま積み立てたもの、という風に思われがちですが、実際には将来必要な分だけ保険料の一部を積み立てたものです。会計上は責任準備金に含まれます。一般的には、責任準備金の中で最も大きな金額になります。さきに(1)で「受け取った保険料をもとに、運用したり」と書きましたが、正確には、受け取った保険料の一部を保険料積立金などの責任準備金として積み立てて運用している、ということです。

貯蓄性商品であれば、その貯蓄部分が保険料積立金として積み立てられていますが、保障性商品の場合でも、将来の死亡率・発生率の上昇に備えて積み立てを行っています。
保険料は払い込む間ずっと同じ金額であっても、保険金等の支払いは加齢などの理由で増加していくことが多いため、その収支のギャップを埋めるために積み立てておくのが保険料積立金であると言えます。

保険料積立金は、具体的には次のような計算を行います。

(*) 保険料積立金 = 将来の保険金の支払額の合計 - 将来の純保険料の合計(注1)

つまり、将来の保険金の支払いに備えるには、「将来の保険金の支払額の合計」が必要になるのですが、そのうち将来の収入で賄える部分は除いている計算になります。

(6)標準責任準備金

長期の保険契約については、変額年金のような一部の商品を除き、法令によって責任準備金の水準が定められています。これを標準責任準備金といいます。

標準責任準備金は、責任準備金のうち保険料積立金について、積立方式(今回は説明を省いています)や予定死亡率・予定利率を法令で定めたものです。標準責任準備金の予定死亡率・予定利率をそれぞれ標準死亡率・標準利率と呼びます。(注3)
標準利率が今年の4月から12年ぶりに引き下げられたことは、ニュースなどで報じられました。

ここで注意していただきたいのは、法令で定められているのは、会計上の金額である保険料積立金の基礎率であって、保険料の基礎率ではない、という点です。
このために、保険料と保険料積立金で基礎率が異なる場合があり、その場合は後者の方が一般的には保守的な基礎率になっています。(ここで「保守的」と言っているのは、おおざっぱにいえば金額が大きくなる方向に設定されるという意味です。)

上の保険料積立金の算式(*)の中の純保険料は、保険料の基礎率ではなく、保険料積立金の基礎率で計算したものです。
したがって、この純保険料は営業保険料と直接関係のない金額になるので、場合によっては実際の収入である営業保険料を上回ることもあります。
その場合、計算式(*)のように「将来の純保険料の合計」を引いてしまうと、実際に期待できる収入以上の金額を引いてしまうことになるので、将来のための積立てに必要な額を過小評価してしまうことになります。そこで、そのような場合には、次のように計算式の修正を行います。

(#) 保険料積立金 = 将来の保険金の支払額の合計 - 将来の営業保険料の合計

純保険料が営業保険料に換わっていることに注意してください。なお、このような純保険料が営業保険料を上回るという状況はそれほど多くはないのですが、付加保険料が比較的小さい場合は起こりやすくなります。

(7)保険料積立金率(Vレート)

保険料率と同じように、毎回基礎率から計算するのは大変なので、あらかじめ保険金額に対する割合をレートとして作っておき、決算時にはレートに保険金額を掛けて保険料積立金の計算をするという実務が広く行われています。(Vは保険料積立金を表しています。)

Vレートの計算は、(*)または(#)を保険金で割った式になりますので、以下のようになります。

(**) 保険料積立金率 = 将来の保険金の支払い回数(注4) - 純保険料率×将来の保険料の支払い回数(注2)

純保険料率が営業保険料率を上回る一部の契約については、(**)の純保険料率を営業保険料率に置き換えた式になります。

(##) 保険料積立金率 = 将来の保険金の支払い回数(注4) - 営業保険料率×将来の保険料の支払い回数(注2)

(8)ライフネット生命の場合(注5)、そして変更の内容について

保険料積立金の計算については、以上(5)~(7)が一般論です。
ただし、一般論通りであっても、保険会社はあらかじめ使用する算式について金融庁からの認可を取得する必要があります。

ライフネット生命の場合ですが、変更前は、(7)にある通りの算式で計算していました。
それでは一般論通りだったかというと、そうではありませんでした。

上で述べた“一般論”は、(7)の(**)や(##)のレートの保険金を掛ければ(*)や(#)で計算した金額と同じになるという前提があります。ところが、ライフネット生命の場合は(3)で述べたように250円の追加がありますので、(##)のレートに保険金を掛けた金額は(#)の金額より250円を考慮していない分、保険料積立金の評価がより「保守的」なものとなっていました。

そこで、標準利率の引き下げなど、今後は影響が広がることを考え、あらためて保険料積立金の計算方法について検討し、金融庁の認可を取得した上で、算式の変更を行いました。変更後は、(*)について、「(**)×保険金」で計算するところまでは従来通りですが、純保険料が営業保険料を上回る場合の(#)については、(*)と同様に「(**)×保険金」で計算した金額に、「純保険料と営業保険料の差額 × 将来の保険料の支払い回数」を加算する方式に変更しました。これで、営業保険料に含まれる250円も取り込むことができるようになり、(#)の計算が精緻に行えるようになりました。

(注1)実際には、将来の収支を予定利率で割り引いて現在価値に換算します。

(注2)「将来の保険金等の支払い金額」は、契約によって異なりますが、同一の契約内容(保障内容・年齢・性別等)のもの全体の平均値に相当するものです。
また、「保険料の支払い回数」は、死亡等により契約が消滅するケースも考慮した同一の契約内容のもの全体の平均値に相当するものです。
ただし、どちらも(注1)と同じく現在価値に換算したものです。

(注3)ライフネット生命の場合、保険料積立金の積立方式は、金融庁の認可のもとに5年チルメル式を採用しているため、責任準備金は標準責任準備金では ありません。
ただし、保険料積立金の基礎率は、標準責任準備金と同一の基礎率(予定利率、予定死亡率)です。

(注4)死亡保険の場合は保険金が1回支払われるか、まったく支払われないかのどちらかなので、「保険金の支払い回数」という言い方は違和感があるかもしれません。
ここでは(注2)のように同一の契約内容のもの全体の平均値と思ってください。
また、入院保障などは、入院日数という要素が含まれますので、支払い回数ではない商品もあります。

(注5)上の(注3)でも述べたように、ライフネット生命は積立方式として5年チルメル式を採用していますが、今回の話には直接関係しないことと、説明がこれ以上煩雑にならないようにするために、チルメル式の部分は省略しています。

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