デグチがWatch「真っ正直インタビュー」第17回目は、@niftyのブログサービス、ココログの立ち上げを企画され、現在では人気ブログ「小鳥ピヨピヨ」の執筆や、ギズモード・ジャパンの編集長としても活躍されている、いちるさんです。
今年、初めてのお子さまが生まれたばかりという、いちるさん。社会人になりたてのころに勧められて加入した生命保険の見直しを真剣に検討されているとのこと。
出口から生命保険の仕組みを聞くうちに、生命保険っていったいなんだろうという思いに至ったようです。
いちる: そもそも生命保険を初めて作った人って、どういう思いがあったんでしょうか。
人々の人生が安全でつつがなく終わってほしい、お金がなくて困窮するような人がいない社会にしたい、と思った人がビジネスとして始めたんですか?
出口: 保険はまず、東方貿易が盛んであった中世のヴェネチアで始まったんですよ。最初は、海上保険がスタートです。そのころのヴェネチアには、貧しいけれどもお金を出し合って船を出して一儲けしようというチャレンジ精神の旺盛な若者たちがいたんですね。そんな彼らからすれば、船を失うことは大変な損失でしたから、海上保険の仕組みができあがったのです。
やがて、海外貿易の中心となったロンドンで大火が起こります。家を失うのは、貧しいロンドン市民には大きな痛手したので、これを契機に海上保険をまねて、火災保険が生まれたんですよ。
いちる: そういえば、今でも○○海上とか××火災という保険会社がありますね。
出口: その通りです。同じ仕組みを一家の働き手の命に適用したのが生命保険の始まりです。一家の主が倒れたら、残された家族の生活が行き詰ってしまいますからね。僕は保険の原点を「船は一艘、家は一軒、命は一つ」と言っています。いずれも、 お金持ちではないごく普通の市民のために始まった仕組みです。
いちる: 保険にはそういった歴史があったんですね。ところで、一番古い保険会社はどこですか。
出口: 現存する一番古い保険会社はロイズでしょうか。ロイズはもともと船乗りたちを相手にしていたブローカーが集まっていたコーヒー・ショップです。そこが海上保険を引き受ける保険業者やブローカーたちとの取引の場だったんです。それにちなんでロイズが保険会社の名前になったんですよ。
いちる: へぇー。ロイズという保険会社は聞いたことがありましたが、そんな由来があったんですね。
出口: 名前の由来といえば、いちるさんのブログ、とてもユニークな名前ですよね。どういういきさつで「小鳥ピヨピヨ」という名前がひらめいたのでしょうか。
いちる: 当時、僕はニフティで働いていて、アメリカで流行りだした「ブログ」というものを日本でも流行らせようと企画していました。 その一環として、僕自身もブログを書き始めたんですよ。 まだまだ、ブログの黎明期でしたので、書いているのは著名な投資家だったり、優秀なエンジニアが多かったんです。 ひとつは、そういう人たちがブログを書いている中で、頭を低くして、自分は小鳥みたいな小さい存在だからというような意味合いを込めたんです。
また、ブログが流行る前に、ネットで日記をつけるサービスはたくさんありましたが、ブログにはそれまでのサービスとは違った大きな特徴がありました。
これらの頭文字をとって「コ・ト・リ」としたんですよ。
出口: おお、なるほど! それで「小鳥」なんですね。「ピヨピヨ」はどういう理由ですか?
いちる: 「小鳥」という名前で始めて、あとからノリで「ピヨピヨ」と付けました。
当時のブログというのは頭のいい人が素晴らしいことを書くものだ、というような風潮だったんですよ。 一方で、僕のミッションは多くの人にブログを書いてもらうことですので「ピヨピヨ」と付けて、より親しみを持てるイメージにしてみたんです。 ブログへの参入障壁を下げたいと考えていましたので。
出口: 日常のささいなできごとを書くのがポリシーだとおっしゃっていますよね。
いちる: はい。当初から意図的にそうしていたんですよ。 ある人がブログというものに興味を持って、検索エンジンなどでブログを調べたときに、たどり着いたブログが難しいものばかりだったら、自分には無理だとあきらめちゃいますよね。 それじゃあ、ブログは普及しません。 でも、「小鳥ピヨピヨ」に書いてあるようなことだったら、きっと「これなら自分にもできそうだな。」と感じてくれると思うんです。
出口: とても印象に残る名前ですし、これからブログを始めてみようという人の心理的なハードルを下げる意味で、すごくいいネーミングですね。
いちる: 最近、「FREE」という本を読んだのですが、サービスを無料で提供するというのは、そのサービスを利用してもらうための障壁を下げるために非常に有効だということが書かれています。
仮にそのサービスを利用するのが1円だったとしても、そのサービスの対価として1円が適切なのかどうかと悩んでしまいます。 無料だと、そういった判断をする必要がないので、非常にスムーズにそのサービスを利用してもらえるのです。 そうして、多くの人が躊躇なく利用するようになると、集まってきた人を対象に、新たなビジネスを展開できるという仕組みです。 ブログもそうですが、多くの人に使ってもらうために心理的なハードルを下げるというのは非常に重要なことなのです。
出口: すごくよく考えられた上で戦略的にブログを書かれているんですね。
いちる: まあ、はじまりは仕事の事情もあって、そういう戦略的なことも考えていましたが、その後ブログの普及がはじまって急に忙しくなると、今度はブログを書くことが、仕事から離れて、素の自分に戻るための手段に変わっていったんですよね。自分ってこういう出来事に反応するんだな、とか、自分と他人との違いってこういうとこかな、とか。そうやって精神のバランスをとる効果が、少なくとも自分のブログにはあったと思います。
出口: そうか、ブログは自分を映す鏡なんですね。 確かに、僕も保険会社の社長として公式ブログを書いていますが、それだとなかなか書けないのが実情です。 一方で、プライベートなツイッターであれば、思ったことを自然に書くだけで自分と向き合うことができるんですね。
いちる: そうです。他方でページビューとか、人気などにとらわれだすと、また自分らしさが失われてしまって、そういった効用も薄れてしまうんですよ。
出口: いちるさんのような人気ブロガーだとそういったことを気にすることのない高みにいらっしゃるんじゃないですか。
いちる: そんなこともありませんよ。実は、「小鳥ピヨピヨ」とは別にライブドアブログで密かにブログを書いているんですが、こちらは1日7ページビューしかありません。 「小鳥ピヨピヨ」が多くの人に読んでもらえてるのもたまたまかもしれませんね。
対談は、「小鳥ピヨピヨ」で取り上げられているスターウォーズの話題
や、いちるさんのお父さんが観た「ロード・オブ・ザ・リング3」のエピソード
で盛り上がった後、二人が好きな本の話題に移っていきました。
出口: 僕は本が大好きで、ひたすら読むのですが、最近は子どもたちが本を読まなくなったと言われていますよね。 ブログなどウェブで情報を得るようになって、これからの社会はどう変わっていくと思われますか。
いちる: 僕は本は、場所を取るのが一番の難点だと思っています。そんなにたくさん家に本を置いてはおけないし、かといって図書館に借りに行くのも面倒ですし、読んだ後で売ってしまったら、読み返したいときに困ってしまいます。
出口: 僕は暇があれば本を買って読んでいたのですが、気がついたら住んでいた部屋の廊下まで本で埋まってしまいました。 その時に、思い切ってすべて処分したという経験があります。
いちる: そういった問題を解消するため僕は、電子書籍が普及するのを期待しているんです。 ここ数年、音楽はiPodで聴くようになり、そこに何千曲も入るようになったので、僕のうちからはCDもレコードも一切なくなりました。 同じように電子端末に本が何万冊も入るようになれば、保管にスペースを取らなくなるので便利になるのではないかと考えています。 また、新書を執筆するときに、実際は80ページくらいで書きたいことは収まるのだけど、 新書としての体裁を保つために200ページくらいになるように原稿を水増ししたりすることもあると聞いたことがあります。電子書籍が普及すれば、 様式にとらわれることがなくなるので、出版しやすくなるのではないでしょうか。
出口: 一方で、CDやレコードもそうですが、本の装丁も含めて、そのもの自体を所有したいというような欲求もありませんか。
いちる: たとえば、ハリーポッターシリーズを全巻そろえておくとか、絵本みたいに電子化できない機能がある場合はそうだと思います。 一方で、ビジネス書などは、電子化してもその機能が失われませんから、ものとして所有する必要はありません。 ただ、多くの企業が電子書籍に参入して、まだうまくいっているものはないので、ユーザーインターフェースなどに問題があるのだと思います。
出口: 途中まで読んでしおりをはさんでおく機能など、まだまだ電子書籍では使い勝手が悪いですよね。
いちる: そうですね。一方で、電子書籍にすることで広がってくる可能性もあると思います。 たとえば、本を読むときに付箋を貼ったり、マーカーで線をひいたりすることはよくありますよね。 電子化すれば、ブログの記事にブックマークを付けるように、みんなが本にマーカーを付けた箇所を共有できるようになります。 どこをマークしたのか、どういう感想を持ったかという部分だけネットで無料で読めて、全部読みたければ購入する、なんていうサービスがあってもいいんじゃないでしょうか。 ほかの人とコミュニケーションをとりながら本を読んでいくイメージです。
出口: みんなで本を読む読書会をネットで行っているような感じですね。 学生時代に読書会をよくやっていましたが、マルクスなどを読む会では、どちらかというと論争をする場という印象でした。 電子書籍が普及して、ネットで読書会ができるようになれば、抽象的な論争ではなくて、もっと具体的で建設的な意見交換ができるようになるかもしれませんね。
いちる: 出口さんはウェブを使ってライフネット生命のことをより多くの方に知ってもらえるようなPR活動をいろいろされていますよね。 ネットで熱心に情報収集しているような人には、徐々にアプローチできていると思いますが、それほど深くはネットを使っていない人に知ってもらうためには、もっと別のサービス展開が必要かもしれません。 先ほどの本に関する情報サイトとか、旅に関するサービスとか、生命保険の枠組みにとらわれず、人生を豊かにするようなサービスをウェブで展開してはいかがでしょうか。
例えば、ホンダはネットでのマーケティング活動に力をおいていて、車を中心に、農業だとかあらゆるライフシーンにかかわる情報を提供することによって、結果的に自動車メーカーのサイトに人が集まってくるようなサービスを展開しています。
出口: タイヤメーカーのミシュランが旅行やグルメのガイドブックを出版するようなものですね。 車を使いたくなるのは例えばデートの時なんかですよね。だからミシュランは旅行ガイドやレストランガイドを作って、きっと車で家族や彼女と遠くに行ってもらおうと考えたんですよ。
僕はロンドンで働いていた頃、ミシュランの旅行ガイドに「絶対に訪れるべきだ」と載っていたフランスの郊外の景勝地にタクシーに乗って行ったことがあります。 確かに眺めが良くて、素晴らしいところでしたが余りに遠い。どちらかというと市内をぶらぶらしていた方が良かったなんて経験もあります。
いちる: そうなんですね! もしかしたら、レストランガイドでも、車じゃないと行けない遠くのお店の方がちょっとだけ、有利に評価されているなんてこともあるのかもしれませんね。
ライフネット生命に置き換えると、みんなが健やかに長生きしてもらった方がうれしいわけですから、健康とか予防医学に関するブログメディアを運営するなんていうのも一つのアイデアかもしれませんね。
出口: いちるさんのブログには温かいものを感じます。特にお父さんについて書かれた記事はとても愛情がこもっていて、ああいう風に書かれるお父さんはうらやましいなぁと思って読んでいます。
いちる: 僕のブログは、よく「視線が優しい」と言われます。でも自分ではよくわからなくて、それよりも1日1回ニヤッとしてもらえたらいいなくらいの感じで記事を書いていました。ただ、今年、子どもが生まれて、少し書く内容に変化が出てきたんですよね。なんだか最近、この子が大きくなる20年後、30年後の世界について真剣に考えるようになってきて、それが記事にも反映されるようになってきた気がします。
出口: 確かに、僕も初めて子どもが生まれたとき、この子が大きくなったときも僕の生まれた美杉村の雲出川のようにきれいな川が残っているような世界であって欲しいと思ったことがあります。
いちる: ライフネット生命に入ったら、そういう将来の地球環境とか、医療とか世の中をよりよくすることに貢献できるような保険料の運用がされているといいですよね。
出口: 僕も同じようなことを夢見ています。まだできたばかりの会社ですので、今は集めたお金を国債中心で運用していますが、将来的にはそういった企業に投資できればと考えています。 ライフネット生命はこういう保険会社でありたいという「生命保険マニフェスト」を公開していますが、将来、ライフネット生命が大きな金額を運用できるようになったら、投資の「マニフェスト」を作りたいと思っています。 単に利回りがいいから投資するというのではなくて、地球環境や子育て、医療など世の中をよりよくするために熱心に取り組んでいる企業に投資するというような基準が創れたら最高ですね。
民主主義というのは、議員を選ぶ投票だけではなく、「お金による投票」というものがあってもいいと思うんです。 税金を払うときもその税金がどういう用途に使って欲しいかを意思表示できれば、それなりに納得感がありますよね。 それと同じで、ライフネット生命が集めたお金がどう使われているかという観点から、私たちのことを選んでもらえるようになったらいいなと。まだ、夢物語ですが。
いちる: そうやってどういう企業に投資、運用しているかやその結果がウェブサイトでオープンになっていれば、ライフネット生命がどういう世界を作っていこうとしているのかというのが明らかになりますね。そういった取り組みを続けることで「顔が見える生命保険会社」になっていくんだと思います。
出口: そうですね。ライフネット生命の「ネット」は単にインターネットという意味だけでなく、命のきずなというような意味合いを含んでいます。個人だけでなく、投資先の企業も含めて、同じ価値観を共有する人たちの共同体を作っていけたらすばらしいですね。 最近はよく「社会的企業」という言葉を良く耳にしますが、企業はすべて何かをしたいという社会的な目的があって始まったはずです。 もちろん成長していくためには利益を上げていくことが必要ですが、利益を上げること自体が最終目的ではないのです。 ライフネット生命の目的は、マニフェストを実現することです。
ライフネット生命はまだ小さい会社ですが、そういった命のきずなを広げられる生命保険会社なるために、一所懸命がんばっていきたいと思います。
本日はどうもありがとうございました。
このあと、いちるさんにお持ちいただいた現在ご加入中の保険証券をもとに、ライフネット生命の社員が保険相談をさせていただきました。どういう保険に入っていたかよく知らなかったという、いちるさんでしたが、見直すとしたらどうやって考えたらよいか、ご理解いただいたようです。

いちる プロフィール
・ ニフティ(株)でブログサービス「ココログ」を企画、
立ち上げ
・ アルファブロガー2005、2006
・ 現在、シックス・アパート(株)で新規事業開発を担当されているほか、
ブログメディア「ギズモード・ジャパン」の編集長を務める
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