真っ正直インタビューの第15回目は、「きかんしゃトーマスとなかまたち」や「ピングー」など、子どもたちに人気のキャラクターのライセンスを統括するヒット・エンタティンメント・リミテッドのアジアパシフィック最高責任者、フランク・フォーリー氏にお話を伺ってきました。キャラクタービジネスと生命保険。不思議な組み合わせですが、実はとても共通点が多いようです。
出口(以下、出) : (オフィスを見渡して)トーマスがたくさんいますね。私は、昔からトップハム・ハット卿が好きで、今日は伺うのがとても楽しみでした。どうぞよろしくお願いします。 ところで、御社は社員数はどれくらいいらっしゃるのですか?
フォーリー(以下、フ) : ネットで出口さんの記事を拝見して共感したのですが、うちも少人数でやっています。日本は4名です。
出 : まさに少数精鋭ですね。
フ : 香港にもオフィスがあるのですが、そちらは8名。制作ではなくてライセンスビジネスなので、人数はミニマムで済みますね。
出 : フランクさんはアイルランドのお生まれと伺いました。
フ : はい、コーク州というアイルランドの南のほうなんですけど、タイタニックが最後に寄港したところです。14歳の時、父の仕事でオーストラリアに移住したので国籍はオーストラリアです。
出 : 僕は仕事の関係でアイルランドには何度も行ったことがあります。緑が多くて良いところですね。ロンドンに3年ほど赴任していましたので。その時は日本生命にいたのですが、今はライフネット生命という会社を立ち上げて、ネットでわかりやすく安くて便利な生命保険を販売しています。
フ : 日本では初めてなのですか?オンラインで生命保険を売るというのは。
出 : 世界でも非常に珍しいと思います。日本ではライフネット生命と、SBIアクサ生命が、インターネットで生命保険を販売しています。
フ : 日本の会社で、これだけ社長さんがメディアを駆使して商品のメリット・デメリットをきちんと説明して、かつ、業績も右肩上がりというのは素晴らしいことですね。
出 : ありがとうございます。なぜライフネットを立ち上げたかというと、日本は20代や30代がものすごく貧しいということに尽きるんですよね。一人あたりで見たら、年金世代の65歳以上よりも貧しい。
理由は明確で、日本の大企業・製造業が輸出競争力をキープするために、20代、30代をフリーターとして雇い、正規雇用していないという背景があります。でも、歴史的に見ても、20代、30代が貧しくて、かつ栄えた国というのはあまりないですよね。なぜなら子どもが生まれないから。こういう状況で保険会社が何をなすべきかを考えたら、やはり保険料を半分にして、少しでも負担を減らすことだと思ったんですよね。そして、安心して赤ちゃんを産んでくれたら、と。
フ : そうですよね、私も同感です。
出 : 保険料を半分にするには手数料を減らすしかないですから、インターネットで直接販売する方法しかないわけです。加えて、広告費もミニマムに抑える必要があります。なので、私や副社長の岩瀬が広告塔になって、どんなところにでも出かけて行ってライフネットをPRして歩いているわけです。
フ : やはりうちの業界もそうなのですが、確かに不景気ということもあるにはあるんですけど、子どもの数が減っていることもあり、オモチャが売れなくなってきています。ですから少子化は、本当に深刻な問題として肌で感じています。
出 : トーマスは長い歴史があって、確か日本に入ってきたのは73年くらいですよね。ちょうど私の上の子どもが1973年に生まれたのですが、トーマス、ゴードン、パーシー、エドワード・・・一緒に本を読んだりしたので、私もしっかりと覚えています。
フ : 日本のお父さんお母さんたちは、僕たち以上にトーマスの世界を理解してくれています。子どものために、何度も何度も本を読むし、ビデオも繰り返し見ているし、何しろ触れる機会が多いですから。世界的に見ても、アフリカの一部の地域を除く、全世界にトーマスは浸透しています。実は今年に入って大きなニュースがあって、中国のCCTVという国営放送でトーマスの放送が始まったんです。
出 : トーマスの普及率は人口シェアに応じているんですか?
フ : 金額的に見ると、アメリカが一番ですね。アメリカ、英国、日本、ドイツ、その他という順番です。日本は本当に大きなマーケットなんですよ。
出 : GDPの世界シェアに近い順位ですね。
フ : アジアパシフィックは、世界の売上の25%を占めています。日本は25%のうちの半分、4分の1はオーストラリア。ただ、中国がものすごい勢いで伸びていますから、あと2、3年くらいでオーストラリアと同じくらいになるかなと予想しています。
出 : トーマスは生命保険に若干似ているなと思います。生命保険もある程度はGDPシェアに比例するんですよ。そもそもGDPが高くないと、生命保険は普及しません。やはり、人間はまず、衣食住が大事ですから。そういう意味では、トーマスなどの商品も生命保険と同じなんですね。
フ : そうですね、共通点はありますね。ただ、我々が扱っているものは、どんなにお金持ちでもそれなりの給料の人でも、何かは買うわけです。ただ、いくら使うかが違うんですよね。おじいちゃんおばあちゃんが孫に買うものの値段と、若いお母さんお父さんが子どもに買うものの値段は違います。今の日本の傾向は、大体5,000円以上するようなものは売れなくなってしまいました。ただ、高価な物が売れるとしたらおじいさんおばあさんが孫のために、というマーケットはあります。売れる個数は変わりませんが、売上が下がっています。安いオモチャが選ばれるんですよね。
出 : 購買行動が変わってきているんですね。
フ : 中国の場合はまた違って、不景気になればなるほど、親たちは子どもの教育に熱心になりますから、お金を子どもの教育にまわすわけです。ですから、中国での戦略は、まずは「英語」。トーマスの英語教材ですよね。それから英語だけじゃなくて、食生活、トイレの使い方、友達との遊び方とか、そういった基本的なところを学ぶものとしても、トーマスを活用してもらおうというのが狙いです。
出 : 子どもたちに、マナーや世間の常識を覚えてもらうために、トーマスの本を読んでもらうというのは確かに説得力がありますね。
フ : 時代をよく見て、マーケットニーズにマッチした戦略、プライシングとかマーケティングをしなければならない、というのはライフネットとうちの共通点だと思います。
出 : 僕は以前、中国の大学で何度か講義をしたことがありますが、学生が非常に勉強熱心だったことをよく覚えています。教育が中国のキッズ市場の大きな鍵になっているというのは、よく合点がいきますね。
フ : 国によって、本当に売り方などが違うんですよ。たとえばオーストラリアだと、とにかく安くしなければならない。Kマートなどの大型ショッピングセンターで、毎月必ずセールをするんです。日本の場合は、安くすると確かにそれなりに売れるんですが、それよりも何かプレミアをつけるという方が効きます。値段はそのままで、何かおまけが付いているというのが日本での売り方ですね。
出 : おもしろいですね。
フ : 逆にオーストラリアでは余計なものはいらないっていう、シンプルなものが良いみたいですね。
出 : ライフネット生命はおまけが一切つかない、主契約だけのシンプルな生命保険なので、オーストラリアで出したらもう・・・
フ : すごい売れるかもしれませんね!
フ : 日本は、保険がものすごく高いでしょう?
出 : 高いですね。ライフネットは46社で唯一、手数料を開示していますが、それでも手数料部分は保険料の内20%ちょっとあるんです。46社の中で保険料が最低水準のライフネットでもそれくらいなんです。
フ : 僕は一度、日本とオーストラリアの保険を比較したことがあります。妻が日本人で娘も日本でずっと暮らしているので、何かあったときに、オーストラリアとやりとりするのは面倒だろうなあと思って、保険料が高かったけど、手続き的なことを考えて日本の生命保険に入りました。まだ、その頃はライフネットがなかったので。今だったらライフネットに入っているかな。子どもを増やそうというコンセプトに、本当に共感していますし。子どもを増やすことは、日本がやらなければいけないことですよね。
出 : 昔、仕事で田舎の村の、90歳くらいの村長さんにお会いしてお話をきく機会がありました。30年くらい村長をされていて、何が一番うれしかったかと聞いたんです。「去年赤ちゃんが2人生まれたこと」という答えでした。村にお嫁さんが来てくれなくて、八方手を尽くしたがダメで、フィリピンからやっとお嫁さんが2人来てくれた、と。
ただ、村長は元陸軍士官ということもあり、お嫁さんがフィリピン人ということに当初は複雑な思いを抱いておられたらしいんですね。 そして一年ちょっとして赤ちゃんが生まれて、赤ちゃんの顔を見た途端に、自分は100%間違っていたことを悟った、と。これから、自分がこの村を治めて行く間は、この2人の子どもたちとフィリピンから来てくれた2人のお母さんたちのために仕事をしよう、と心に決めた、と。僕はもう、このエピソードに尽きると思うんですよね。フランスの例(PACSなど)を見てもそうですが、指導者がしっかりとしたビジョンを持ってそれを具体的に形にすれば、赤ちゃんは増えると思うんですよ。
フ : オモチャ業界も子育て支援に前から力を入れていて、大手玩具メーカーは会社に託児所を作ってお母さんの復帰をサポートしたり、出産手当を出したり。子どもが増えれば増えるほど会社から支援があり、子どもがいてもお母さんたちが安心して働ける環境を用意してあげるという、これは本当に素晴らしい取り組みだと思います。国がリーダーシップを発揮すれば、会社もどんどん追随していくと思うんですよね。ただ、日本には今のところそれが見られない。
出 : ターミナル駅にファッションのお店とかレストランとか、どんどん新しくきれいなお店が増えていますが、なんで24時間保育所がないんだろうと思いますよね。すべての駅にエレベーターやエスカレーターを設置して、ベビーカーを押したまま街に気軽に出ていけるようにするとか。 今ちょうど選挙の最中ですが、どの政党もそういうことを言わないのがとても不思議です。
フ : 結婚して子どもができて、生まれて・・・という話題は、どの国に行っても同じだなと思いますね。言葉が違っても、子どもの教育についての親の思いとか、オモチャに喜ぶ子どもの反応は一緒です。今、
トーマスのミュージカル
が日本をツアーしています。アメリカから始まって、英国を始め、ヨーロッパを回ってオーストラリアに行って、日本が世界ツアーの最終公演になるんですが、どこへ行っても子どもたちの反応は同じ。言葉を聞かなければどの国かわからないくらいです。同じように、子どもが生まれる環境づくりに成功している国を手本にして、うんと勉強して、日本でも同じようなことをやればうまくいくかもしれないですよね。
出 : 女性の社会進出の度合いを見たら、日本はおおよそ100番目ぐらいで、先進国はもちろん、お隣の中国などに比べても格段に低いですよね。女性や若者の指導者が少ないことが、結果的に子育てに冷淡な社会を作ってしまったのでは、と思います。

フ : 僕は前に出版業界にいたことがあるんですけど、出版は女性がけん引しているなと思いました。じゃあ他の業界はできないの?とも思いますよね。うちの会社もテレビのトップは女性、制作のトップも女性で、自分の上司が女性になっても当たり前という環境です。
出 : ライフネットも女性が強いんですよ。
フ : テレビも出版もそうですし、特にこういったキャラクターやオモチャについても、やっぱり、決定権はお母さんが持っています。お母さんの気持ちが分かる人じゃないとできないことが多いし、いい仕事ができません。
出 : 生命保険も最後に決めるのは奥さまということが多いです。
フ : 今やっているプロジェクトは、御社と同じように広告とかあまりお金を使えないので、いかに効率的にお母さんたちにリーチできるかということで、どう考えても「携帯電話」だな、と。携帯をうまく使って、情報を配信してお母さんたちにあとはクチコミで広めてもらうということを考えています。 トーマスを、おくり迎えのときに幼稚園の前で話すネタにしてもらおうと思っているんですけどね。
出 : ライフネットも実は、携帯から保険を申し込めるサービスを今年6月から始めました。ちゃんと約款も読めるようにしてあります。
フ : いろんなメディアがありますけど、携帯のいいところは24時間、お母さんが持っているというところですよね。
出 : 少子高齢化というのは、ある程度スピードを抑えて子どもが減らないレベルにとどめておくことはできても、なかなか増えるという段階には至らないわけですが、ビジネスを展開させていくなかで、これからの御社の課題はなんですか?
フ : トーマス自体が男の子のキャラクターということもあり、トーマスのファンは男の子が多いです。とはいえ、ストーリーもキャラクター設定も、男の子女の子に関係なく楽しめるものなので、より多くの女の子にもトーマスのファンになってもらいたいというのが課題ですね。あとは、もっと小さいときからトーマスに触れて、知ってもらって、ファンになってもらうことが大事と考えています。
出 : トーマスファンの年齢層はどれくらいなんですか?
フ : 大体メインは3歳~5歳ですが、1歳、2歳くらいからトーマスに触れてもらいたいので、1歳くらいのお子さんを持ったお母さんたちに、トーマスの良さを伝えていきたいですね。
出 : やはり、女性にターゲットを広げていくというのが課題なんですね。
フ : そうですね、お母さんたちとより気軽に接点をもてるようなシステムとか何か仕組みをつくらなければいけないと感じています。トーマスを好きなお母さんたちが、いつ何時でも、簡単にトーマスの情報を得ることができたらいいですよね。 ライフネットさんもそうだと思いますが、いかに今以上の付加価値を提供していくことができるか、ということが鍵だと思います。
出 : まさにおっしゃる通りでして、われわれのお客さんの8割は20代、30代の若いカップルなので、小さいお子さまをお持ちの方が多いです。彼らが保険を選ぶときにライフネットがいいと思ってもらえるような、おまけではない付加価値を創りだしていきたいと思っています。
出: 最後に、なぜフランクさんが今のお仕事を選ばれたのか、教えていただけますか?
フ : トーマス!これに尽きます。トーマスというブランドを持っている会社だったからです。誰でも知っているブランドを持っている会社で働けるチャンスだと思ったんですよね。業界的にも、子どもが喜んでくれる仕事なので、楽しいんですよね。一番うれしいのは、子どもたちの反応です。ミュージカルを後ろから見ていて、子どもたちが純粋に楽しんでいる姿が見える。新橋でタカラトミーのプラレールのイベントに行けば、子どもたちはトーマスに一番反応してくれる。トーマスで遊んでいる子どもたちの顔を見るのが、一番の喜びです。他の業界にはないでしょ?
出 : 非常に印象に残るキャラクターですよね、トーマスは。キャラクターだけではなくて、ストーリーが単純でおもしろい。
フ : よく、お母さんたちのコメントでいただくのが、「トーマスは普通の子」だと。普通の子どもと同じで、いたずらもするし、ダメなところもあるけど、最終的には反省して良い子になるっていう。
出 : 子どもの琴線に触れるストーリーですね。
フ : 来年、トーマスは生誕60周年、日本で放送が始まって20周年なんです。ということは、今の若いお父さんお母さんが子どものときに見ていたので、2世代でトーマスを楽しめるということになるんですよね。
出 : ライフネット生命は、まだ開業1年ちょっとで、今年は2年目になるのですが、60年くらい経って、(僕はもう死んでいると思いますが)、ライフネットのロゴがトーマスくらい有名になっていたいなぁ、と思います。
フランクさんのお子さんは、やっぱりトーマスが好きですか?
フ : よくあることで、自分のお父さんが仕事でやっているものはキライ、っていう、ははは! うちの子は女の子なんですけど、うちの会社にはトーマス以外のキャラクターで『レインボーマジック』というのがあるんですが、そっちにハマっています。ゴマブックスから本が出ているのですが、それはもう、お父さんの会社のキャラクターだけど好き!というくらい好きみたいです。

フランク・フォーリー氏 プロフィール
News CorporationにてFOXやナショナルジオグラフィックチャンネルなどを統括、その前にはHarperCollins Publishersにてマーケティングマネージャーなどを務める。現在は、「きかんしゃトーマス」や「ボブとはたらくブーブーズ」などのライセンスを取り仕切るヒット・エンタテイメント・リミテッドのアジアパシフィック最高責任者として、多忙な日々を送る。アイルランド生まれでオーストラリア国籍を持つ、日本語バイリンガル。
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