真っ正直インタビューの第10回目は、ファンドレイジング道場主宰 株式会社ファンドレックス代表取締役鵜尾雅隆(うお まさたか)さんとの対談です。この未曽有の経済危機において見直されるべきは「お金の使い方・生かし方」。日本の寄付文化の現状や、日本社会のお金の価値観改変についての提案など、経済好転への糸口が見える対談となりました。

出口(以下、出) : よろしくお願いします。新聞で拝見したのですが、2月18日に日本ファンドレイジング協会を立ち上げられて、アメリカからPaulette Maeharaさんという著名な方をお招きして、国連大学でシンポジウムをされたそうですね。こういう協会を立ち上げようと思った動機はなんだったんでしょうか。
鵜尾(以下、鵜) : 前職のJICA時代に、NPOの経営サポートのようなことをしていました。そこで、NPOというのが資金的に苦しいために、どんなに経営改善をしても最後は立ち行かなくなってしまうということを知り、なんとか改善する方法はないのかということでアメリカに渡って、ファンドレイジング、いわゆる資金集めをどうやっているのかというのを、いろいろな切り口で見てきました。そういう中で、日本には機能としてないものがいくつかあるな、と。助け合いの気持ちが、資金という形で循環するようになるために必要な機能がいくつか欠けているのですが、そのうちの一つが、こういうファンドレイジング協会のような機能であると、確信に至りました。帰国後、その構想をずっと暖めながらファンドレイジング道場というブログで情報発信をしつつ、ネットワークを広げ・・・という流れで、今回立ち上げることができたというわけなんです。
出 : ファンドレイジング協会のような機能とは、どういうものですか。
鵜 : 運日本には欠けているインフラがいくつかあるんですが、ひとつは、NPOがお金を集めるにあたっての成功事例や感動体験を共有する場がないということ。アメリカにはAFP(Association of Fundraising Professional)という、3万人規模の会員を持つネットワーク組織があります。年に一回4,000人くらいがあつまってノウハウを共有する場です。もうひとつは、寄付者の権利を定めたDonor Bill of Rightsというのがないということ。アメリカだけでなくヨーロッパなどで定めている寄付者の権利憲章のようなものです。そしてもうひとつは、お金を集める側の倫理規程ですが、これも日本にはありません。あとは、寄付白書というような、年間のキャッシュフローがわかるようなものもありません。年間に善意のお金がどう流れているのかというのがわかるものですが、統計を取っているようなものもないんです。つまり、市場として成長するためのインフラを整備する、そういった機能をファンドレイジング協会が担っていく必要があるなと思っています。

出 : 平たく言えば、寄付集めの作法とか寄付の統計とか、ごく常識的なプラットホームが日本にはない、ということでしょうね。文化とか国の成り立ちとかの違いだけではなくて、ごくごく当たり前の(寄付の)土俵がなければ、寄付がうまくまわらないということでしょうね。
鵜 : アメリカにいたときに、NPO学会の会長でもあり歴史学者でもある、David Hammackさんと一緒に、各国のNPOセクターの成長にどうしてこんなに差があるのかを比較研究をしてみたんです。3年ほど住んでいたインドネシア、それからアメリカと日本を軸にして、ヨーロッパも入れて調べて・・・

出 : オバマ大統領といっしょですね。(オバマ大統領もインドネシアに暮らしていたことがある)
鵜 : あはは、そうですか、・・・で、調べていく中で感じたのは、NPOセクターの成長っていうのは、いろいろな要因で規定されるわけですけれども、日本社会の場合、歴史的にみるとNPOセクターに対して逆風があったのは確かです。町内会という機能を一つとっても、住民同士の助け合いで成り立っているのですが、第二次世界大戦のときに戦争遂行の目的で、その性格がガラリと変わってしまった。そういう中で、地域社会に残っていた住民の助け合いの成功体験に対して、嫌悪感ができてしまったんです。非営利的な住民の活動が中央化されて、第二次大戦で地域が軸となっていた活動が廃止され、その後1970年代に反ベトナム運動の影響で、地域の活動がちょっと怖いという認識になってしまった、という流れもあり、なんとなくNPO的なものがあまりにも非日常的なものになってしまったんだと思うんですよね。NPOという言葉がなかったころの方が、NPO的な考え方やあり方が自然にあったんじゃないかという気がします。

出 : 年代別の所得を調べたんですけど、日本では一人当たりでみると、20代30代が一番、貧しいんですよ。これでは安心して子供が産めるわけがない。当社の理念は、保険はもともと子育ての期間にこそ必要なものなんだ、と。そうであれば20代30代の保険料を半分にして、赤ちゃんを安心して産んでもらおう、と。それが、この会社を作った最大の動機なんです。僕は生命保険という形で共助のしくみをきちんと揺るがないものにしたいと思うんですね。20代30代の市民の保険料を半分にするため、コストを抑えられるのは、ネット販売しかありません。今は、フォスターペアレントなどバーチャルな親子関係でも共助が行える時代。伝統的な地域社会だけではなく、リアルとバーチャルとを組み合わせて新しい社会を作っていけばいいと思うんですよ。
鵜 : 今、まさに地縁型の社会というのがなかなか難しくなりましたし、だからこそテーマやメカニズムで区切っていくコミュニティができあがっていくプロセスが日本には必要だと思います。それを実現するのがまさにNPOだったり企業であったり。そういう段階に日本はきているんじゃないかと思いますね。寄付やNPOのおかげで人生変わったと思う人がほとんどいないという状況なんですよね。でも「日本人のみなさん、欧米社会のようにもっと寄付しましょう」と言ってもだめで、実体験を共有しないとだめなんです。NPOの成功体験を市民の実体験とすることで、信頼もキャッシュフローも生まれてくる、と思っています。
鵜 : 個人的にレガシィクラブというのをつくろうかと思っていまして。人生とお金ということについて考えている方もいらっしゃると思うので、全員で遺書を書きましょう、というものです。そして、1万円でも5万円でもいいので、持っているお金を社会に還元しましょう、どこかに寄付をしませんか、という遺書を残した人だけが入れるレガシィクラブです。人生とお金についてみんながまじめに考えて、形として残すことに違和感がなくなるような社会にするために、と思いまして。
出 : 僕もぜひ発起人に入れてほしいです。たとえば今、年金が破たんしていると言われています。しかし、よく考えてみると、例えば年収が500万円以上ある人には、極端なことを言えば年金を払う必要がないですよね。でも給与から引かれた自分のお金だから、とみんな平然と受け取っていますよね。所得が500万円以上ある人が「年金はいりません」と言えば、年金はあと最低10年は持ちますよ。やっぱり硬直した、画一性と同質性が、この国の発展を阻害する要因になっていますよね。
出 : 僕は、自分で稼いだお金は自分で使う権利があると思うんです。保険はリスクヘッジだからコストですよね、コストだから考え方としてはミニマムでいい、と。人生をちゃんと生きるためには、できるだけ合理的に考えたほうがいいと思うんです。ライフネットに加入した人の話を聞くと、保険を見直したら毎月7000円近く削減できたというアンケート結果 が出ているんです。だから、本当に必要なお金は比較して納得してミニマムに使うという、そういう選択肢をたくさん選べる人生が素晴らしいと思うんです。
鵜 : まさにそうですよね。ライフネットとファンドレイジング協会が目指しているところは、ベクトルが似ているなあと。日本社会は、お金をどうやって増やすか貯めるかばかり。でもお金はどう使って、どう活かしてハッピーになるかというものだと思うんですよね。保険もどんどん自由化してもらうことによって自分の活かせるお金が増えるし、行政へのキャッシュフローを減らしてNPOにそれが流れると、結果として実は行政が効率的になって競合関係が生まれるので、トータルでの使えるお金が増えるんですよね。
鵜 : これもある種バーチャルなコミュニティの変わった取り組みと言えますが、80のNPO団体が集まって、定額給付金基金というのを18日に立ち上げました。NPO自身も、今までこういうときにバラバラで動いていて一体にならないところがあったんですが、今回は力を合わせて受け皿を作って、子供たちのために使ってほしいとか貧しい人のために使ってほしいとか、思いを持つ人たちのために投票型の基金を作ったんです。お金って生かすものなんだというのを、この経済危機はアピールするチャンスだと思います。
出 : お金は楽しく使おう、使ってこそ価値がある、と。そういう文化をこれからぜひ一緒に作っていきましょう。

ペンを握りお互いの考えを共有するなど、熱いトークとなりました。

鵜尾雅隆(うお まさたか)さん プロフィール
株式会社ファンドレックス代表取締役
「ファンドレイジング道場」主宰
91年以降、さまざまなNPOの理事、運営委員などとしての資金調達経験のほか、NPO向けのファンドレイジング専門団体である、アメリカCommunity Sharesで企業顧客の開拓に従事。
2004年、米国ケース大学Mandel Center for Nonprofit Organizationsにて非営利組織管理修士取得。同年、インディアナ大学The Fundraising Schoolにて、Certificate on Fundraising Managementを日本人で初めて取得。2006年日本帰国後、「ファンドレイジング道場」を立ち上げ、ファンドレイジングのノウハウや寄付事情の各国比較などを発信している他、講演、全国各地での研修、個々のNPO向けのファンドレイジング改善や戦略策定のコンサルティングなどを行っている。2008年7月1日、日本初のファンドレイジング専門のコンサルティング会社である株式会社ファンドレックスを創業。2009年2月、日本ファンドレイジング協会の発足に携わり、常務理事に就任。
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