ライフネット生命保険
デグチがWatch 生命保険業界のオピニオンリーダー・出口治明が、生保について鋭くやさしく語ります!

出口の真っ正直インタビュー 深尾 光洋 編

投稿者:
出口治明

真っ正直インタビューの第7回目は、国際金融論の第一人者である日本経済研究センター理事長(金融班主査)/慶應義塾大学商学部教授 深尾 光洋さんと金融論を通して生命保険の今について対談を行いました。どうぞお楽しみください。

-国際金融論の第一人者が、生命保険の今を斬る-

出口(以下、出):深尾さんは著名な経済学者でいらっしゃいますが、ずいぶん昔から生命保険に興味をもっておられて、日経センターでもご指導されていますね。そもそもなぜ生命保険に興味を持たれたのですか?

深尾(以下、深):原体験は出口さんです(笑)。日米摩擦が華やかだった頃ですが、私が日銀の金融研究所にいた時に、ハワイで日米の金融学者が集まる会議がありました。当時私は、日本の為替管理の自由化が、金融市場や為替市場にどういう影響を与えたか、を分析していました。1980年の外為法の改正で、対外投資の自由化が行われましたが、同時に生命保険会社の外債投資が拡大していったわけですね。あの時に、生命保険会社の外貨ポジションが為替相場に相当影響を与えるのではないかと考えて出口さんの論文などを読んでいました。当時は、レーガン政権下で高金利が続いていて日米の金利差が大きく、日本の生命保険会社が大量に米ドル債を買っていたのですが、これが円安の原因ではないかと見ていました。それがきっかけで生保に興味を持ちました。

出 : 『為替レートと金融市場』という名著を書かれたころですね。

深 : 『為替レートと金融市場』を書いた後に、『実践ゼミナール国際金融論』という教科書を書いているのですが、日本の為替管理の自由化の歴史のところに、生命保険会社の海外投資の項目があって、それを調べていくにつれて、生保はでかいな、と。銀行部門に次いで、大きな金融資産をもっている。しかも、銀行の場合はヘッジポジションで外貨をもっていますが、生保の場合はオープンポジションで外貨投資をやってましたよね。そこで、非常に興味をもちまして、出口さんからも、どういうリスク管理になっているかっていう話を聞いたのが最初のころです。その時以来、生保に興味をもっていて、そのあと、2回目に生命保険会社の分析をしたのは、97年の金融危機の少し前、日本のコーポレートガバナンスの分析をしたときです。株主の役割という観点からみても、これまた生保は大きい。生保は会社の発行株式の10%まで保有できるが、、銀行の上限は5%です。そうすると、生命保険会社が株主として重要な役割をもっているという観点からまた興味をもって、ガバナンスと生保の関係ということで、ニッセイの基礎研と共同分析をやりました。

出 : ニッセイの基礎研に来ていただいたのが、97年か98年ぐらいですよね。

深 : その時に金融危機が始まって、生命保険会社の破綻リスクが出てきた。ニッセイ基礎研で、生命保険会社の経営分析の初期的なノウハウをだいぶ勉強させて頂いた。昔の保険審議会に呼ばれて、保険会社の株式会社化、倒産処理などについて議論しました。それから金融審が大きくなって、保険審議会は保険問題に関するワーキンググループへと、だんだん名前が変わっていますが、あの頃から一環して保険に関する部会に入っていましたので、生保については、継続的に分析してきました。また同じころから、日経センターの金融班の主査をやっていましたから、それで個別の保険会社の経営分析、特に破綻事例について、分析をしていまました。ちょうど千代田生命の破綻直前に、いくつかの保険会社が実質債務超過ではないかという結果を発表したところ、ほぼ同時に破綻する、ということが起きて、それで注目されるようになったと思います。

出 : そのあと、日経センターで毎年のように生保の経営分析をされていますよね。

深 : まぁ、最近は隔年になったりしていますが。生命保険会社の開示が少しずつ良くなってきたので分析しやすくなりました。特に資産サイドについては、かなりの程度開示されていますので、ある程度、経営体力が見えるようになってきました。ただ、連結ベースではないので、そこが大きなネックですね。それから、負債サイドの期間構成がもう一つ見えないので、そこがわからないという点はありますが、それ以外はまぁまぁ、わかるようになってきましたね。

出 : 負債のところは、保険期間とか、保険の手数料の内訳とかいろんなところがまだ、ブラックボックスになっていますから、評価しにくいのでしょうね。

深 : ただ、大づかみに言って、バランスシートの時価がわかっていますので、時価ベースの運用利回りはわかります。そうすると、逆ザヤ額を公表していますので、そこから、逆算すれば、負債コストは見えますし、運用利回りもわかる。そうすると、トータルの利益からみれば、保険関係の収益はだいだい見える。ただ、3利源には分けられませんけれど、事業費は開示されているので、ある程度ざっくりとした分析はできる、ということだと思います。ですから、資産サイドだけが時価で、負債は簿価ベースで分析すれば、どの程度の逆ザヤ体力があるかとかは、見えますね。あと、実質純資産基準の開示がそれなりにされていますので、ソルベンシーマージンを見るより、よっぽど経営体力が見えるといいますか、時価ベースのバランスシートがある程度見えますから、わかりますね。これで一応の分析ができている、ということだと思います。

-誰がどれだけ損失をもっているかが見えない-

出 : 今は、誰もが予想しなかったような、金融危機で、アメリカではAIGがああいうことになりましたし、今日の新聞では、アメリカの保険会社の株が相当売られているという報道もありました。アメリカに対して、日本は傷が浅いとか、心配ない、というアナウンスがされたりしていますが、先生からご覧になって、日本の保険会社は、銀行と同じように今回のマーケットの変動の影響はそんなに受けないと考えていいですか?

深 : そうですね…、まず銀行ですが、傷を受けているところは多分あるんだと思います。これから影響が出てくると思います。というのは、アメリカの金融危機の悪化のレベルが激しいので。もうちょっとアメリカはまともに対応すると思っていたのですが、アメリカが非常にまずい対応を続けていますので、短期金融市場が完全に干上がった状態になっています。このため日本でも銀行、保険会社を含めて影響が拡大する可能性がありますね。一つはストラクチャードボンドを持っている金融機関があるわけですね。外債投資などの一環で。これがどの程度あるか見えにくいわけですね。それからオルタナティブ投資ですが、これも保険会社がやっていますので、これのリスクがあります。あと、子会社で持っている部分も見えにくい。AIGも要はロンドンの小さな関連会社、AIGグループの中のひとつの300人程度のデリバティブを専門にやっていた会社がCDS(クレジット・デフォルト・スワップ)で巨額の損を出した。しかし、巧くいっていた時はAIGの収益の2割弱を300人で支えていた、ということですね。ということは、相当リスクをとっていたわけで、CDSを売りまくるというか、保証をたくさんすることで、毎期上がってくる保険料をすべて利益に計上していた。これで、全体の利益を押し上げていた訳です。これをやっていた、ロンドンのチームの報酬は一人当たり年間1億円ぐらい出していたということでゴールドマンより高い報酬をもらっていたわけですよね。これは、よく考えると自分のリスクで信用保証を与えているわけですから、信用力の違いはデフォルト率の違いであって、それは本来引当処理すべきものですよね。信用保証を与えてすぐ潰れるということは普通はなくて、何年かすると悪化して潰れるということですから、本来は保証料収入の大半を引き当てにまわすべきなのを、当期利益に計上してしまって、利益を出して、ボーナスをもらっていた。要するに収益の期間対応、損益の期間対応のミスマッチを利用したCDSによる利益の嵩上げをしていた、ということですね。あれが一つ見つかりますと、他もみんなやっているのではないかという心配が広がった。いま、CDSの想定元本が去年の末で62兆ドル、今年の6月末で54兆ドル、ですから、天文学的な数字でして、世界GDPを上回るぐらいの、想定元本残高があります。他のデリバティブと違って、CDSは全損のリスクがあるわけですね。想定元本の大半が失われるリスクのあるものを大量にぐるぐる回しているわけです。誰がどれだけ含み損を持っているか見えないという恐ろしさが広がった。

もう一つは、ある会社が倒産するか否かの賭けがCDSであるということです。 金利スワップであれば、金利変動に対する賭けですよね。先物為替であれば為替変動に対する賭けで、あるいは株式オプションであれば、株に対する賭けである。そうすると賭けですから、勝ちと負けは足すとゼロであるべきです。本来CDSの場合も、信用保証を与える側と受ける側でシンメトリックに、対照的に評価されれば価値はゼロとなるはずですが、どうも両方でプラスにしていたのではないか。AIGの事例なんかで見ると、そう見えるわけですね。つまり保険料は全部利益にあげて、保証してもらったほうも、自分の利益でかさ上げできる、と。

出 : どっちも巧く周っていたときは、ウィンウィンですけれど…

深 : ウィンウィンは紙の上の問題で、決済した時にはゼロになるはずですよ。問題は残高が毎年倍々になっていたので、仮に想定元本の1%程度、誰も真実はわからないのですが、仮に1%の利益をかさ上げしていたとして、残高が54兆ドルありますから、1%の54兆円という利益の過大計上ができる。これは山勘の数字ですが、それぐらい利益のブレが生まれるようなタイプのデリバティブなんですよ。ですから、これがいまの一番の注目点ですね。信用不安の問題はサブプライムを処理しても終わらないのではないか、と思いますね。それは、CDSの評価が見えない、だからどこに損が隠れているか見えない。CDSは本来ある会社がつぶれたときにその損失補償をするということだったわけですね。そういうことであれば、まぁ、ヘッジなのですが、実態はどうなっていたかというと、あの会社が潰れるかどうかの賭けをして、潰れたら保証を受けていた側は儲かる、保証していた側は損するということになっていますから、原資産と全く離れたマーケットになって、拡大しているというのが、非常に怖いのだと思います。

出 : 要するにサブプライムが落ち着いても、CDSが世界中にばらまかれているので、まだどこに損失が隠れているのかよく見えなくて、危ないということですね。そうであれば、日本の銀行や生命保険会社が本当に大丈夫かどうか、軽傷で済むかどうかは、もう少し見ないといけないのかもしれないですね。

深 : 全部が全部というわけではないと思いますが、何社かが大きな損をこうむる可能性がありますね。

出 : 保険会社の場合は、保険契約者保護機構を先生に作っていただいています。形としては、保険契約は責任準備金の9割が保護されることになっていますよね。庶民の気持ちとしては、こういう世の中で、保険会社がつぶれることはあっても、法制上、保険契約は保護されるので大丈夫と考えていいのでしょうか。

深 : 私は、契約の保護レベルは9割ではなく実質7割だと思っています。ですから、覚悟すべきは実質3割カットだと思います。これはどういうことかというと、責任準備金を1割カットする。あとは、早期解約控除を最大1年あたり2%で、10年消却で20%かけますよね。保護の内容は、「保険契約者が10年間契約を続けて保険料を払っていて、年間2%ぐらいの利益を保険会社に与えれば、10年後には貯蓄額の1割カットで返金しますよ」ということですね。保険契約者保護機構の保護水準は実質7割保護で、責任準備金あたりの保険会社の粗利益は2%ぐらいですから、まぁ、そういうことなのかなぁ、と思ったりしています。

出 : そうですね。丁寧に言えば、V(責任準備金)も全期チルメルになりますし、おっしゃったように、解約控除がありますし、予定利率も下げますから、責任準備金の厚い年金や終身保険などの生存保険の削減幅は9割を下回る可能性が高いでしょうね、きっと。一方で、掛け捨て保険は予定利率も最近は低いですから、ほぼ100%保護されると考えていいんでしょうか?

深 : そうですね、掛け捨て保険は予定利率引き下げの影響が小さいですから。定期保険や医療保険などの掛け捨て保険は、100%保護したって、とにかく続けてもらった方が保険会社にとって有利なわけですから。生保の収益源ですからね。

出 : そういう面では、掛け捨て保険がほぼ100%で、返戻金のある貯蓄型の生存保険は、場合によっては9割を下回る恐れもあるとみておいたら良いのでしょうね。

深 : そうですね、生命保険契約がそれだけのリスクのあるものだと、いうことだと思いますね。

-預金が200万もあれば、医療保険は要らない?!-

出 : また違う質問になるのですが、個人がそれなりに資産蓄積をしていくうえで、預金、保険、株式投資のポートフォリオをどう構築すれば良いのでしょう。こういう不透明な状況の中で、普通の個人というか、いま大学を卒業して、サラリーマンになった人が自分で将来を考えて、どういう風に貯金とか、保険とか、投資とかを考えていったらいいのでしょうか。

深 : それがわかったら、偉いと思いますよ(笑)。 私は、一番収益率が高いのは、自分への投資だと思いますよ。ヒューマンキャピタルでしょう。

出 : それは同感です。若い時は自分に投資するのが圧倒的に特ですよね。

深 : 留学するなり、英語をやるなり、中国語をやるなり、それが一番利回りが高いので、まずそれをやる。そのためには金と時間を惜しんではいけないということですよね。さらに余裕があったらお金を貯めていく、ということだと思いますね。

出 : 僕も昔から、40歳ぐらいまではひたすら自分への投資をやりなさい、と言っていますが、それは大前提として置いておいて、例えば貯金とか保険とか、投資とか、どういう風に若い人に教えたらいいのでしょう。

深 : 一番初めは、やっぱり銀行預金なんでしょうね。あまりお金のない人が投資をしても始まりませんので、やっぱり、100万なり200万なりは銀行預金で積み上げて、それを越えた段階で投資を考える。あとは、結婚したり、ローンを借りたりしたら、死亡保険を買うと。ただ、奥さんが働いていれば、そんなに死亡保険はいらないわけで、共稼ぎの場合は、その時の収入の高い方が、掛け捨てで死亡保険をある程度入っておくのは、十分あり得る話だと思いますね。

出 : そのあとで、余ったら投資をする、ということでしょうか…

深 : やっぱり、死亡保険の場合は、値段をよくみて比較して、大手の掛け捨て保険は相当高いので、中堅以下で経営のいいところの掛け捨てを探すとか、あるいは職場のBグループ保険は安いですから、それを選ぶとか。県民共済が安いという噂がありますが、あの辺りはバランスシートが見えないので、私はよく分からないのですが。

出 : 保険会社の場合は一応、保険数学を基礎に計算していますので、手数料とその年に使ってしまう危険保険料と貯蓄保険料に分かれていますよね。県民共済は貯蓄保険料がなく、賦課方式なのですよ。若い人がどんどん入っていれば問題ないのですが、急激に高齢化した時は、数学的な根拠がないので、ちょっと不安な気がしますね。

深 : それから死亡保険に比べれば、医療保険は要らないかもしれない。例えば、預金が200万もあれば医療保険は要らないのではないかと思いますね。

出 : 生命保険の本質は死亡保険だと、僕も思っています。

深 : 外資の売れ筋の医療保険の収益分析をやってみますと、将来払い出す保険金は大体4割ぐらいなんだと思いますね、収入保険料に対して。将来の保険金見積もり額に経費を2割積んで、その倍ぐらいかけた保険料の設定をしている。そのうちの大きい部分をPR/広告に使って、あとは利益になっているということになっているんじゃないかと思います。そういう意味では結構高いものを買っているのではないかと思いますね。

出 : もう一つは、死亡表が3つに分かれていますよね。死亡保険用と、年金開始後用と、第三分野用と。年金開始後用の死亡率はちょっと安全面が高すぎるような気がしますね。

深 : 年金の死亡表も今回、かなりコンサバティブにしましたよね。でも、将来の寿命の延長線上まで、カウントしてますからね。

出 : 僕は保険会社を作るにあたって色々試算したんですが、アメリカの死亡表を使って、例えばトンチン年金を計算すると、保険料が日本の半分ぐらいになるんですよね。日本の死亡表はアクチュアリーが人口統計を数学的に補整しているので、僕には全く判断はできないのですが、ちょっとtoo muchかな、と思いますね。

深 : 日本の平均余命の延びが尋常ではないので、保険会社も長寿化のリスクが恐いのでしょうね。

-「確定部分だけ取ればマイナスだが長寿リスクはカバーします」と堂々と言える終身年金を-

出 : いつも僕は悩んでいることがありまして、掛け捨ての保険は手数料を押さえればいい商品ができると思っていますが、貯蓄型の保険になると、運用システムを作って、アナリストを雇い、アセットアロケ―タ―を雇ってということになると、やはり経験的に投資信託と一緒ですから、よほど安くしても、残高の1%とか2%ぐらいは手数料がかかりますよね。ところが、確定商品で保証しようとすると、今の日本の超低金利政策のもとでは、市場金利の代表である国債の金利で1.5%とか、そんなものですから、そうすると死亡表とかでよほどリスクをとらないと、良い貯蓄型の商品が作れない。これは、どう考えればいいのでしょうか。

深 : これはむしろ、名目金利が低いのは、物価上昇率が低いからであって、そうであれば高い利回りを追求するのは無理があるんじゃないかな、と思いますね。私は有期年金は年金だ、と思わないので、結局は終身年金だと思うのです。終身年金であればむしろ、長寿リスクをヘッジしているんだと思ってもらうしかないと思うんですね。そうすると確定部分だけでいったら、マイナス利回りになる、ということになるんだと思いますね。

出 : なるほど。確定部分だったら、マイナス利回りになるけれども、堂々とそういうことを言って、長寿リスクをとりますという商品をめざしていくのが本筋だと。

深 : ですから、例えば65歳で年金を払い始めたら、「確定部分しか確定してませんよ」と、それで、早く亡くなった場合は、明かにマイナスになりますって言っておくんだと思いますよね。それをちゃんと言っておかないと問題になりますからね。その代わり万一長く生きられたら、相当たくさんもらえますよ、と。現在の寿命はあなたの年齢でこれぐらいあって、将来の伸びを考えたら、ここら辺までいく可能性があります、と。そういう風であれば、私はそれで消費者に納得してもらえるんじゃないかと思いますね。

出 : その場合は、利回りはマイナスになる場合があっても、経済原則上、仕方がないんだと、いうことですね。

深 : 確定部分はですね。その時に確定部分の期間を選べるようにしておく、という手はあるんだと思いますね。ですから、トンチンを効かせるのであれば確定部分5年とか、2年とか短くして、効かせないのであれば10年とか長くしてその場合の利回りは違いますよ、ということなんだと思いますね。

出 : 基本的に年金は終身が原則でしょうね。終身じゃない年金ってなんか変ですよね。それから、終身年金は預金と違って、強制貯蓄の側面がありますね。実際の日本人は、特に退職金とか一時金で終身年金を買うケースを考えれば、単純な利回りとか元本が増えるのかということを大変気にするので、確定部分だけはマイナスだけど長寿になれば帳尻りが合うというようなところは説明しにくい、ということがありますが、その辺は我々の努力や技術でやっていかないといけないのでしょうね。

深 : それが、売りこめるかどうかが一番のポイントだと思いますね。

-保険会社の経営で、はずしてはいけない点とは-

出 : 話が変わるのですが、長く保険会社を見てこられて、私たちは、インターネットを使ってできるだけ安い保険料を実現しようと新しい保険会社を作ったわけですが、保険会社を経営していく上で、外してはいけない大事な点などを教えていただければ、と思うのですが。

深 : いや、むしろそれはこちらが教えていただかなければと思いますよ(笑)。やはり、いまの大手の保険会社の保険商品は特約が複雑すぎて、保険会社の人自身が説明できなくなっていますね。金融庁のある会合で、生命保険会社の人に、設計書の1ページをみて、3大疾病の定義はどこかに書いてありますか?と聞いたのですが、その会社の方が会議の間中、ずいぶん探していましたね。ようやくわかったらしく、「6大疾病の一部になります」という答えがあり、それに対して、「6大疾病のうちの3つとはどれですか?」と聞いたら、後ろの注の20何番目かの、その注の下の※印の中に3大疾病の定義があるわけなんですよ。これでは、消費者はわかりっこない。加えて、保険事故の定義があいまいですね。例えば、手術給付も限定列挙になっています。そうすると何が除外で、何が除外されないのか。お客さんには手術したらこれだけ払いますよと言ってるのでしょうけれど、じゃ、扁桃腺の摘出だったら、「いや、これはリストにはありません」という話になるわけですよね。これをどうやってチェックするのか、ですから私は医療保険や入院保険、介護保険の設計の思想について、非常にトラブルが発生しやすい構造になっていて危うさを感じますね。

出 : それはおっしゃる通りで、当社は新設会社なので、極力商品をシンプルにしたのですが、7月3日に金融庁が出した、保険金の不払いの報告書がありましたね。135万件、973億円ぐらいだったと思うのですが、私どもの会社は、特約がなく、商品をシンプルにしたので、うち118万件は該当しないんですよ。おっしゃったように保険事故の定義をできるだけわかりやすくする、というのはすごく大事なことだと思いますね。

深 : ですから、できるだけ一枚の設計書で生命保険をわかりやすくするのが大事なところだと思いますね。逆に、わかりにくくすると儲けが出やすいという面もあると思うのですけれどね。でもその場合は同時に、少数の悪意の人がいたら、それだけで利益の何割かを持っていかれちゃうというリスクもあるわけですよね。

出 : モラルリスクも紙一重のところがありますよね。あと他にはどういう点に気をつければいいでしょう。

深 : 一つは物価変動に対するヘッジということだと思うのです。日本は今はデフレですが、30年たった時にどうなるか見えないわけですね。そうした場合にどうやって、物価変動のリスクをヘッジするのか、という問題です。

出 : 特に長期の積立型の年金保険を売るようになると、そこが一番重要でしょうね。

深 : そうなると、物価連動債を組み込むというのは一つありえて、利回りは当然低くなりますが、物価が上がってもそれは増えますよ、と。そうすると合わせ技で、普通の名目金額の終身年金と物価連動債をあわせて買ってみてはどうですか、というようなことが言えるかもしれないですね。あるいはそれに近い効果が得られるのは、外貨建て年金ですね。運用を主要通貨の外貨で運用する、と。

出 : バスケットですか?

深 : アメリカも今はごちゃごちゃですので、ちょっと待ったほうがいいと思いますが、バスケットというより、ドル建てで、ドルで払う。ユーロ建ての保険でユーロで払う、というようなタイプの保険、まぁ、払込金額は円で受けるのでしょうけれど、一時払いであればその段階で、全額ユーロに変えて、ユーロで運用して、ユーロで終身年金を払う。ドルはドルで終身年金を払うと。そして、変換レートは毎月、または四半期で払う時の為替レートで円換算して払う、ということにする。このような通貨についての分散というのはあり得ると思います。

出 : なるほど。いろいろなアイディアをいただいた気がします。今日はどうもありがとうございました。すごく、参考になりました。

深 : お役に立てたかどうかわかりませんが、こちらこそ、ありがとうございました。



深尾光洋 プロフィール
日本経済研究センター理事長(金融班主査)/慶應義塾大学商学部教授 専門は国際金融論、金融論、コーポレート・ガバナンス
金融審議会専門委員(保険の基本問題に関するWG)、政策金融改革ワーキングチーム






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「デグチがWatch」を毎回楽しく読ませて頂いております。そして今回の深尾先生との対談はその中でも私にとってピカイチで、コメントせずにはいられませんでした。出口社長の柔らかく優しいが、鋭いご質問と、それに応える深尾先生の丁寧で解りやすい説明は、金融に浅学の小生でも「ふむ…ふむ…なるほどな~」と非常に勉強になりました。
 例えば、AIGが過去において、凄いリスクがあるにも関わらず、CDSを売りまくって、リスクを加味せず、その保険料を全て利益に計上し、凄いボーナスを受け取っていたなんて話…、保険会社に保険料を払うことの怖さが、切々と伝わってきましたし、また、そうしたCDSが世界中にばらまかれていて、日本の生命保険会社は大丈夫なのか?と、確かに不安になりますね。そして、保険契約者保護機構を作られたご本人の口から、「保護のレベルは9割じゃなく7割だ!」と言われてしまうと……不安の極みです。ただし、「掛け捨て保険は安心。」と出口社長は補足され、加えて「だから、ライフネット生命は掛け捨て定期の生命保険を業に…」という説明は、説得力が増し大きく頷けました。勉強になりました。ありがとうございました。
 ただ、一カ所だけ…よろしいでしょうか?

>県民共済は貯蓄保険料がなく、賦課方式なのですよ。若い人がどんどん入っていれば問題ないのですが、急激に高齢化した時は数学的な根拠がないので、ちょっと不安な気がしますね。

というお話しでしたが、確かに年齢性別に関係なく一律掛金・一律保障の県民共済は、賦課方式(若年層から保険料を徴収して、高齢層に保険金を支払うという仕組み。)との指摘は正しいと思いますが、それでも賦課を強いられる若年層の保険料が、一般の生命保険会社の料率に比べて安価であり、更に契約者割戻しなどで実質掛金が引き下げられている点はどうでしょうか?また、契約者割戻しも過去35年、常に30%を上回り、人口ピラミッドがかなり高齢化にシフト(団塊の世代が60才以上になっている)している現在においても継続している点はどうでしょう?さらに、契約者割戻しという精算値引き部分が30%以上あるわけで、それを担保にし、定期生命共済としての高齢化シミュレーション程度は行っているわけで、「数学的根拠がない」と単純に言い切れるのでしょうか?そして、県民共済の場合、ブライダル事業や紳士服事業などを通じて、若年層の賦課を軽くする対策も併行して行っていますから不安は払拭できないでしょうか? しかし、それでも確かに万全ではなく、出口社長がご指摘の通り、若年層の加入が必要だとは思います。更にコストを引き下げて、賦課を強いられる若年層でもどこよりも安価な保険料になるようにしないといけないでしょうね。近江商人の「三方よし」の心得で、こうした努力を続けている限り、賦課方式によるリスクは、商品の価格である保険料率も開示せず、深尾先生と出口社長の対談で出てきた、貯蓄保険料の運用リスクを抱えている所に比べれば、非常に小さいものと思いますが…? 
 以上、長々と保険学の北斗である出口社長に対して、非常に生意気なことを書いたことお許しください。

投稿者:
sugiyamahayato
投稿日時:
2008年10月31日 14:24

コメント、どうもありがとうございました。賦課方式の一般的な問題点を話したつもりでしたが、
やや舌足らずでした。個々の共済が、様々な努力を重ねて経営の安定に尽力されていることは
よく承知しており、深い敬意を抱いております。また、機会がありましたらぜひ、当社をお訪ねください。意見交換をさせていただきたいと思います。

投稿者:
出口治明
投稿日時:
2008年11月06日 16:06
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